女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。





「先輩! お待たせしました!」



私が息を切らせて旧視聴覚室に飛び込んだとき、律弥先輩は窓際の席で静かに外を眺めていた。


いつもの場所で待っているから、用事が終わったら来てくれ。……というメッセージを受け取ってから、結局ニ十分は経ってしまっている。

私は出来得る限りの申し訳なさそうな顔を作って先輩に駆け寄った。




「講堂の片付け手伝ってたら遅くなりました」


「お疲れ様」




ふわりと嬉しそうに微笑む先輩に、胸がきゅっと苦しくなる。


……制服姿の先輩は、今日で見納めなんだな。


というかきっと、先輩がこの高等部棟にいるところを見る機会は今後ない。


込み上げてくる切なさを誤魔化すように、私はガタガタ音を立てながら手近な椅子を引っ張ってきて、先輩の隣に座った。




「今中庭で絶賛開催中のプロム、大変盛り上がってるみたいですけど。行かなくていいんですか?」


「……たくさんのパートナー希望を断るのに俺がこの数か月どれだけ苦労したか、瀬那は知ってるだろう」



うなずいた。

その通り。よく知っている。