女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




「なあ川咲。俺からも一つ聞きたいことがあるんだが」



濃厚な栗の味がするモンブランで秋の終わりに思いを馳せていた私は、先輩のそんな言葉で顔を上げた。



「何でしょう」


「あー……その……」


「はい」


「な、名前で呼んでもいいか?」


「え?」


「だから、名前……」




ずいぶんと言いにくそうに、目を泳がせた末に出てきた質問。

私は軽く首を傾げ、「はあ」と気の抜けた返事をしてしまった。



「どうぞ、ご自由に」


「ほ、本当にいいのか?」


「別に減るもんじゃないですし。改めて聞くほどのことでは……」




そういえば。

いつだったか、私が累くんのことを名前で呼ぶことに不満を呈されたことがあったっけ。

そのとき試しに先輩のことも名前で呼んでみたら妙に嬉しそうにしていて……。

私は昔から名前の呼び方にそこまでこだわりを持たない環境で生きてきたから、そこまで気にしていなかったけれど。