女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




実際はあんな風に振る舞いながらも、加賀見先輩の友達として──というか恋人になったわけだけど──相応しくないという判断を冷静に下しているのではないか。

そんな不安が頭をよぎる。


そして私はそのお誘いを断る術を知らない。




「で、ではお願いしてもいいですか」




先輩に言ったみたいに「悪目立ちするから嫌です」とはとても言えなかった。

私がごくりと唾を飲みこんで答えると、後部座席の扉が開いた。


さてさて逃げ場がない。


やましいことなんてないのに、処刑待ちの罪人のような気分。




「ごめんなさいね。律弥に見つかると絶対に怒られると思って。あ、わたしも後ろにいくわね」




先輩のお母さんはそう言って、助手席から私の隣へと移動してくる。

そして、車はすぐ静かに走り出した。



「瀬那さん。あの子といつも仲良くしてくれて本当にありがとう」


「い、いえ。こちらこそです」


「あの子が女の子を連れてくるのなんて、それこそ小学生になる前とかだったから……」