女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。





「すっかり長居してしまいましたね」



私が再び加賀見邸の玄関に立ったのは、午後5時頃のことだった。

昼過ぎに来たから、3時間以上は居座ったことになる。




「本当に家まで送らせなくていいのか?」


「だから先輩の家の車はうち周辺では悪目立ちするんですってば」


「そうか。もう少し一緒にいられたらと思ったんだが……」


「なっ……! 学校で毎日会えるじゃないですか!」




これからも時間はいくらでもある。

そう思って言うと、先輩は一瞬目を見開いてから、「そうだな」と静かにうなずいた。



しかし名残惜しい気分であることには違いない。

私は立派な玄関を出て、広大な庭を横切り、これまた立派な門を通り過ぎてからも、ついつい何度か加賀見邸の方を振り返ってしまう。




「恋人同士になった……んだ。私たち」




周りに誰もいないのをいいことにぼそりと呟いてみる。