女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




「お前だってそうじゃないのか、岸井……」




予想通りずっと私のことを累くんと勘違いしていたらしい先輩が、ここでようやく目を開いてこちらを向いた。

ゆっくりと起き上がった先輩は、私の顔を認めると、顔を強ばらせてそのまま硬直した。




「今言ったこと、本当ですか」




カラカラに乾いた口から、私はどうにか声を絞り出す。


加賀見先輩は相変わらず動きを止めたまま、目線だけせわしなく動かす。

そしてしばらくそうした後、またそっと横になって、顔を反対側に向けた。



「先輩?」


「……」


「いやあの、さすがに寝たフリで誤魔化せないんですよ」


「……」


「聞かなかったことにはできませんからね? こっち向いてくださいってば」


「ちょっ、待て。見ないでくれ頼む」




焦ったような声を無視して、私は無理やり先輩の顔を覗き込んだ。