女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




しかし、所詮は旅先での出会い。一緒にいられた時間は短かった。

別れるとき、瀬那はに悔しそうに泣いていた。




『手紙、絶対書くから』




……まあ、そう提案したオレはもっと泣いていたはずだけど。

後で姉に散々からかわれたのも込みで覚えている。


とにかくこれが、どこにでもあるような話と言われればそれまでの、淡い初恋の思い出。

だけどそれを思い出で終わらせないために、オレは必死で手紙を書いた。

お互い一つのことを飽きずに続けられる性格だったので、そこそこの頻度で手紙のやりとりは続いた。

自分のことを忘れてほしくなくて、顔の映った写真を送ってみたりもしたけれど、残念ながら彼女から同様の写真が送られてはこなかった。

だから、旅先で出会った記念に撮った写真から、成長した彼女をよく想像していた。


中学進学を機に留学することになり、その多忙さゆえ一時期は残念ながら手紙のやり取りも途絶えてしまったけど、オレが瀬那のを忘れたことはなかった。