「今日一番の明るい顔をしてるよ、川咲嬢」
「う……」
「ああそうだ。ここだけの話なんだけどさ」
天ヶ瀬先輩は、隣で静かに紅茶を啜るリミさんに一瞬ちらりと目をやり、私の耳に口を寄せる。
「一世一代のかなり本気な告白が一回、様子を見つつの軽めな告白は七回ぐらい……いやもっとかな」
「え?」
「付き合うまでに、僕がリミにフラれた回数」
もう一度、え、と声を漏らした。
顔良し家柄良し、さらに親友のためなら女装することも厭わない心優しさも持った、女子人気トップレベルの天ヶ瀬先輩。
彼が、一人の女性を落とすのにそんな苦労をしていた?
私は思わずリミさんに目を向ける。ちょうど目が合い、ペコリと会釈された。
「まあ、一応僕は明治時代から続く由緒ある名家のたった一人の跡取り息子だし? 使用人の自分は相応しくないって悩んだりはしてたみたいだけど。まあどんな理由があるにせよ、好きな人から拒絶されるのはめちゃくちゃツラいよ」



