女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。





──その瞬間浮かんだ、一つの可能性。

私はそーっと天ヶ瀬先輩に目を向けた。




「川咲嬢、僕の下の名前知らなかったんだね」




天ヶ瀬先輩は必死に笑いを堪えるように肩を震わせて、静かに左手を胸に当てた。




「では改めまして。僕は加賀見の親友、天ヶ瀬(あまがせ)充希(みつき)と申します。一昨日はその女嫌いな親友に頼まれたので、女装してカップルコンテストに出場していました」




……なるほど。


美月さんでも美津紀さんでもなく、充希さんだったというわけか。


不思議なもので、人間というのは事実を知った瞬間そうとしか見えなくなってしまう。


あの儚げ黒髪美少女……分かってから見ると、天ヶ瀬先輩そっくりだ。いや、そっくりも何も本人なのだが。




「まじですか……」


「ウィッグ付けて女子の制服着て、あとは軽くメイクしただけなんだけど……似合ってた?」




いたずらっぽい笑みをうかべながら聞かれ、私は無言で何度もうなずいた。