女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。





いつの間にやら天ヶ瀬先輩の後ろに、黒く艶のある髪を肩上の高さで切りそろえた、凛とした雰囲気の大人っぽい女性が立っていた。



表情筋が無いのではと思うほど無表情で、美人だけど少し怖い。

そんな彼女の手には、学園祭の入り口で配られる立派なパンフレット。これで、天ヶ瀬先輩の頭を思いきり叩いたらしかった。




「痛いじゃないかリミ」


「力加減はしたつもりです。……どうせ、私が来たことに気付いてわざと妬かせるようなことを言ってみたのでしょう。趣味が悪い」


「ははっ、お見通しか」




だけど叩かれて痛がっているはずの天ヶ瀬先輩は、彼女を見て先ほどよりさらに幸せそうな笑みを浮かべた。

痛くないのだろうか。

というかこれで喜ぶとか、マゾなのかなこの人。




「紹介するよ川咲嬢。彼女はリミ。二十歳という若さにして天ヶ瀬家のメイド長であり、僕の彼女。めちゃくちゃ可愛いだろ?」


「メイドさん、で……彼女さん?」