女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




「っ……はは、まじかよ」


「なっ、そんなに笑わなくても!」


「ごめんごめん。いや、そっか。はははは」



あまりに笑われ続けるので少しムッとしたけれど……天ヶ瀬先輩の表情は、無謀な恋をする後輩を面白がっているといった感じではなかった。

むしろ、心から嬉しそうにしている……ように思えた。




「あの」


「ねえ、川咲嬢。川咲嬢の下の名前って瀬那だったよね。浅瀬の瀬に刹那の那で」


「え、はい」


「もし僕と結婚したら天ヶ瀬瀬那か。だいぶ変な字面になるな。舌噛みそうだし」


「はあ……」




突然何の話だろう。ずいぶん奇妙な方向に話を逸らされたのだけれど。

意図がわからず眉をひそめた、その瞬間だった。




「いてっ」




バコンっという痛そうな音がして、同時に天ヶ瀬先輩が頭を押さえた。




「申し訳ございません。各方面誰も喜ばない冗談が聞こえたものですから」