***
診療時間が終わり、デスクでくつろいでいたら四十代らしきご夫妻が真っ青な顔で、黒ラブを抱き抱えて緊急来院。
「戸根院長、急患です」
受付で飼い主から状況を聞いた梨奈ちゃんの声に、体の中を一気に緊張が走る。
「梨奈ちゃん、どしたって?」
梨奈ちゃんを動揺させないために平静を装い努めて明るく振る舞う。
「串が刺さったままの焼き鳥を食べてしまったそう」
「おう、やりおったな」
内視鏡の技術がモノを言う国立大の獣医学部出身の私としては腕が鳴る。
「一緒に」
「はい」
空気を切り裂くように、迅速に診察室に向かう戸根院長のうしろを追いかける。
梨奈ちゃんが状況を記入したカルテを戸根院長に渡し、風を切りながら歩を進める戸根院長がカルテに目を落として診察室に入った。
緊急性が高いことは飼い主がいちばん分かっていること。
だから戸根院長は機敏な動きであるものの、不安を取り除いてあげるように、笑顔を絶やさずにふだんの診察通りにゆったりと構えている。
まずは黒ラブの大きな体を二人で持ち上げ、診察台に乗せて体重と体温を測定をした。
その間も戸根院長は直接問診していく。その隣で電子カルテに入力する。八ヶ月の女の子で名前はフィオナ。
串が刺さったままの焼き鳥を食べたって、よくあること。
慌てて指を突っ込んだけれど、あっという間に飲み込んでしまったと、ご夫妻揃ってお互いに顔を見合わせて驚いた顔をしている。
お子様のいらっしゃらないご夫妻はフィオナを子供のように可愛がっていて、犬は初めて飼ったそう。
毎日驚かされていますとハンカチで何度も汗を拭きながら苦笑いの旦那さんとは対照的に、フィオナの頭を撫でながら「フィオナを助けてください」と繰り返す今にも泣き出しそうな奥様。
「覚えているかぎりの情報を教えてください」
戸根院長の落ち着き払った問いかけに旦那さんが答える。
つい、さっき飲み込んだ。
それなら、まだそんなに奥まではいっていないはず。
その前後は、なにも食べさせていないって。それなら食べ物が検査の邪魔をしない。
よし、これなら内視鏡でいける。
戸根院長と同じ想いで自然にお互いの視線が交わり、同時に頷いた。
「焼き鳥はすべて串に付いたままでしたか?」
「そのまま全部、飲み込んでしまいました」
この世に頼れるのは戸根院長しかいない。だから、どうかフィオナを助けて。
そう奥様の表情が訴えているよう。
「フィオナは大丈夫なんでしょうか?」
「逆に串ごと丸飲みしてくれた方が良いんです」
なぜか、この人のあっさりした言い方は逆に安心感を与える。
「大丈夫なんですね、良かった」
泣き出しそうだった奥様の瞳は一気に希望に溢れて輝き出す。
「でも、どうして大丈夫なんですか?」
安堵で脱力した体を旦那さんにあずけた奥様は、戸根院長の言葉を待っている様子。
診療時間が終わり、デスクでくつろいでいたら四十代らしきご夫妻が真っ青な顔で、黒ラブを抱き抱えて緊急来院。
「戸根院長、急患です」
受付で飼い主から状況を聞いた梨奈ちゃんの声に、体の中を一気に緊張が走る。
「梨奈ちゃん、どしたって?」
梨奈ちゃんを動揺させないために平静を装い努めて明るく振る舞う。
「串が刺さったままの焼き鳥を食べてしまったそう」
「おう、やりおったな」
内視鏡の技術がモノを言う国立大の獣医学部出身の私としては腕が鳴る。
「一緒に」
「はい」
空気を切り裂くように、迅速に診察室に向かう戸根院長のうしろを追いかける。
梨奈ちゃんが状況を記入したカルテを戸根院長に渡し、風を切りながら歩を進める戸根院長がカルテに目を落として診察室に入った。
緊急性が高いことは飼い主がいちばん分かっていること。
だから戸根院長は機敏な動きであるものの、不安を取り除いてあげるように、笑顔を絶やさずにふだんの診察通りにゆったりと構えている。
まずは黒ラブの大きな体を二人で持ち上げ、診察台に乗せて体重と体温を測定をした。
その間も戸根院長は直接問診していく。その隣で電子カルテに入力する。八ヶ月の女の子で名前はフィオナ。
串が刺さったままの焼き鳥を食べたって、よくあること。
慌てて指を突っ込んだけれど、あっという間に飲み込んでしまったと、ご夫妻揃ってお互いに顔を見合わせて驚いた顔をしている。
お子様のいらっしゃらないご夫妻はフィオナを子供のように可愛がっていて、犬は初めて飼ったそう。
毎日驚かされていますとハンカチで何度も汗を拭きながら苦笑いの旦那さんとは対照的に、フィオナの頭を撫でながら「フィオナを助けてください」と繰り返す今にも泣き出しそうな奥様。
「覚えているかぎりの情報を教えてください」
戸根院長の落ち着き払った問いかけに旦那さんが答える。
つい、さっき飲み込んだ。
それなら、まだそんなに奥まではいっていないはず。
その前後は、なにも食べさせていないって。それなら食べ物が検査の邪魔をしない。
よし、これなら内視鏡でいける。
戸根院長と同じ想いで自然にお互いの視線が交わり、同時に頷いた。
「焼き鳥はすべて串に付いたままでしたか?」
「そのまま全部、飲み込んでしまいました」
この世に頼れるのは戸根院長しかいない。だから、どうかフィオナを助けて。
そう奥様の表情が訴えているよう。
「フィオナは大丈夫なんでしょうか?」
「逆に串ごと丸飲みしてくれた方が良いんです」
なぜか、この人のあっさりした言い方は逆に安心感を与える。
「大丈夫なんですね、良かった」
泣き出しそうだった奥様の瞳は一気に希望に溢れて輝き出す。
「でも、どうして大丈夫なんですか?」
安堵で脱力した体を旦那さんにあずけた奥様は、戸根院長の言葉を待っている様子。



