人魚の鼓動はあなたに捧ぐ




「……おれだって、知りたい。けど、無理なんだ。殺されてるってことも、わかってはいるよ。でも、朝になると記憶がハッキリしない」


 ……さっきも、覚えているのはうっすらだと言っていた。

 わたしは元の記憶こそないけれど、この島に来てからのことはちゃんと覚えているのに。

 ふと思い出したのは、まがはみ様のことを教えてくれた女の人のこと。

 二回目に会ったとき、あの人がわたしに初対面のように話してきたのは、少年と同じく朝になって記憶を失ってしまったからなのだろうか。


「──お姉さん、昨日のこと教えてよ。おれ、お姉さんが助けてくれたことと、刺されたことしか覚えてないんだ。おれのこと殺したの、どんな奴だった?」

「えっと、フードを被ってたから顔は見えなかった……けど、男の人だったと思う。声が、低かったから」

「その声、聞き覚えないの?」


 聞き覚えといっても、この島でわたしが知る男の人は四人しかいない。

 一度会ったあのおじいさんと、この少年は違うだろう。

 ウロの声は殺人犯と比べると艶があるし、サエキさんも声は低いけれど張りがあって穏やかだ。


「うん、知らない……」

「おれなら知ってるかもしれないけど……おれ、なにか言ってなかった?」


 殺人犯が話したのは、わたしが死ぬ直前の一度だけ。

 少年は殺人犯の声を聞いていないはずだ──けれど、ふと、わたしが少年に気づいたときのことを思い出した。


「『なんで、あんたが』……そう、言ってた」


 殺人犯に追われているとき、少年は確かにそう言っていた。