怖いって気持ちが、頭の中を支配していた──のに。
気がつけばわたしは、扉の鍵を開けて少年の元へ駆け出していた。
それはきっと、この少年が手を伸ばした先にはわたししかいないと思ったからだ。
わたしにしか、できないと思ったから。
「こっちに来て! 一緒に逃げよう!」
「えっ、お、お前──?」
「早く!」
少年の手を引いて無理やり立ち上がらせて、倉庫の方を指さした。
少年は困惑した様子だったがすぐにわたしが味方だとわかってくれたみたいで、わたしの前を走り出す。
少年が倉庫の扉を開けて、中へ一歩踏み出して、わたしがそれに続いて、扉の鍵を閉めて。
少年の方へ振り返るのとほぼ同時に、それは起こった。
「あ、っ……? あぁぁ……、ごふっ……」
闇の中で頼りになるのは、床に転がる懐中電灯の薄明かり。
少年のそばにもう一人、何者かが、いた。
その、フードを目深に被っている何者かは、かがんで少年の腹に何かを突き立てている。
声が、出ない。
足がすくむ。
助け──助ける? ……もう、間に合わない。
少年は大量の血を吐いて、立っていることさえできなくなっていた。
逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
殺人鬼が、少年の腹から包丁を抜いた。
次は、わたしだ。
床に倒れ込む少年が、もがくように息をしている。
わたしはその後ろで、凍りついた足を動かそうとするのに必死だった。
殺人鬼が、ゆらりとこちらへ向き直る。
それから手を伸ばして、わたしの腕を思い切り引いた。
その力の強さにわたしは抗えず、重力のままに少年の背中の上へと倒れ込んでしまった。
なんとか手をついたおかげで少年にのしかかることは避けられた──そんなことに安堵した、その一瞬。
殺人鬼が、わたしの背後に迫る。



