「お、来たな。待っていたぞ」
あたしたちを見るなり、小林先生は熱く声をかけてくる。
二個目のスタンプは探すと、すぐに見つかった。
広場の近く――雑草が生い茂っているところ。
つまり、小林先生が立っていた場所にあったんだ。
「二個目のスタンプ。こんなに近くにあったのに、気づかなかった……」
あたしは思わず、ぽかんとする。
すると、考人はすべり台の方に目を向けて、少し考えるような仕草をした。
「……それだけ、すべり台にあるという噂の影響力がすごかったのかもしれない」
「えっ? それって、すべり台の噂を気にしていたから、気づけなかったってこと?」
念のために確認すると、考人はうなずいた。
「うん。あの噂で、すべり台にあることが分かった。だけど、広場にもあるかもしれないとは思わなかっただろ?」
「あっ、そっか……!」
あたしはようやく、考人の伝えたいことが分かった。
つまり、『すべり台にスタンプがある』という思い込み。
すべり台に絶対にあるという前提で行動したから、広場にあるスタンプを見逃しちゃったんだ!?
「どうするんだー! このままじゃ、一番でゴールできねー!」
通谷くんはどんどん混乱していく。
そのテンパりようは半端ではない。
あたしたちはこれでようやく二個目。
だけど、すべり台で出会った班の人たちは、早くも三個目を押しているかもしれない。
どうしよう!?
このままでは一番にゴールするなんて、夢のまた夢だ!!
「急がないと……!」
大混乱のあたしは一直線に走り出そうとして……。
そのまま、ぐらりとバランスをくずした。
「うわあっ!」
思わず、あたしは痛みを覚悟したけど。
ぐいっと引っ張られて、視界いっぱいに飛び込んできたのは考人の顔。
あたしの腕をつかむ彼の手は温かい。
どうやら、転ぶ前に、あたしの腕をつかんで助けてくれたみたい。
「あのなー。まだ、スタンプの場所は分かっていないだろ。でも、杏らしいなー」
そう言った考人の姿は、あたしの瞳を揺らがせるのに十分すぎた。
「ううっ……。突然、その言葉はずるい……」
あたしは意識して声にするけれど、どうしても自信なさげな小声になってしまう。
それに何故か、先程から心臓のあたりがすごく痛い。
その胸の高鳴りに応えるように、孝人は熱くこぶしを上げる。



