「考人、ま、まま待って……っ!」
「……なに?」
あたしは慌てて考人の背中に声をかける。
すると振り返った考人が、いつもの調子で応えた。
考人の透き通った瞳に、あたしが映っている。
どこまでもまっすぐなその瞳に、あたしの心が揺れたんだ。
「ブランコ、一緒に乗ろ?」
あたしは手を掲げて、近くのブランコを指差した。
考人は何も言わずにあたしを見ている。
「ほら、この公園のブランコは、百人乗りができるブランコだしー。景色もすごいしー」
……顔の温度が、急激に上がっていく。
思わず、恥ずかしさで目を逸らしそうになったけど、あたしは必死に耐えた。
「ね、ね、一緒に乗ろー。いっぱい、楽しもう」
「別にいいけど」
あたしの誘いに、透き通るような考人の声がそう応えた。
良かったー!
思わず、心の中でガッツポーズをする。
小さくても一歩、近づけた気がした。
「じゃあ、このブランコに乗ろ?」
「分かった」
あたしが言うと、考人は近くのブランコに座った。
足をつけたまま、小さくブランコを揺らして黙っている。
あたしも、考人の隣のブランコを座った。
足先でブランコを揺らし始める。
あたしたちの間に沈黙が落ちるけど。
口を開いたのはあたしが先だった。
「あのね、考人。これからどんなことがあっても、ずっとそばにいてほしいの」
「……急に何を」
心臓がぎゅっとなったけど、あたしは意を決して続けた。
「考人が信じてくれなくても、あたしをまた、遠ざけようとしても……。何度でも伝えるもん。もう後悔したくないから」
それが、今のあたしの全力の想い。
すると、考人の静かな声が聞こえてきた。
「杏、今まで、ほんとにごめん。僕はずっと、真実を知られることが怖かったんだ」
はっとして隣を見ると、考人は寂しそうにあたしを見つめていた。
「……でも、今は違う。運命共同体になった時……あれからずっと考えて答えを見つけた」
考人の目はまっすぐだった。
思わず、どぎまぎして、そわそわしてしまう。
「……真実を知られるのは怖い」
「……うん」
「でも……それでもやっぱり、杏は僕にとって特別で……離れたくないんだ」
その声音に、どきっと心臓が跳ね上がる。
考人の改まった告白に、あたしは顔が赤くなるのを感じたんだ。
「これからは杏のことを避けたりしない。真実を知られるのは怖いけど、僕はこれからも杏のそばにいたい……。今の自分の気持ちをなかったことにはしたくないから……」
そんな真剣な声に顔を赤らめながらも、心がホカホカしてくるのがわかった。



