きっと消えない秋のせい



赤坂小学校に着いたあたしは、遠足の目的地に行くためにみんなと一緒にバスに乗り込む。
遠足では、前もって決めていた四人一組の班で行動するんだ。
そして――楽しみなイベントも待っている。

「わあっ! すごい!」
「……はしゃぎすぎだ」

あたしの声に、考人が呆れたようにつぶやいた。

「だって、すごいんだもん!」

それでも、あたしは窓にへばりついていた。
だって、次々と面白いくらい、窓の外の景色が変わっていくんだもん。
やがて、にぎやかな風景はいつの間にか遠のいて、まぶしいほど、緑の割合が大きくなる。
バスは、あたしたちの住む場所から少し離れた大きな公園へ向かおうとしていた。
恐らく、昼頃には目的の公園に到着する予定だ。
早く公園に着いてほしいと思う、わくわくした気持ち。
そして、もう少しこの時間を楽しみたいと思う気持ち。
二つの気持ちが、バスの中でゆらゆらと揺れている。
その時、女の子たちのささやき声が聞こえた。

「ねー。好きな人はいるの?」
「うん。いるよ」
「えー、そうなんだ。だれだれ!?」

近くで、クラスの女の子たちが好きな人の話題で盛り上がっていた。

好きな人……。
あたしの好きな人はもちろん!

あたしはリュックサックから、かけがえのない宝物を取り出す。
それを見た考人はぽかんとする。

「これ。去年の春の遠足で、僕があげた……。ずっと持っていてくれたの?」
「うん。そのハンカチ、お守りみたいになっていて……」

あたしは懐かしむように目を伏せた。

「考人の性格が変わっても、それがあるからがんばれた」

あたしはハンカチをぎゅっと握りしめる。
今も去年も、大切な宝物。
心がもっと……太陽のような考人と繋がっていたいと訴えていたから。

「考人がそばにいてくれるみたいで……。だから、すごく大事なの」

考人の瞳に見つめられ、あたしは迷う間もなく答えてしまう。
思い出すのはハンカチをくれた、去年の春の遠足の出来事。
山の中で迷子になった時、お願いごとの力で近くを飛んでいたヘリコプターが助けに来てくれたんだけど。
クラスのみんなのもとに戻った時。

『杏、大丈夫か?』
『……た……考人、うわああーーん!!』

泣いているあたしのもとに一番に駆けつけて、ハンカチを差し出してくれたのは考人だった。
幸せな過去の余韻が、今も甘苦しく胸を締めつけている。
それでも胸の中に弾ける感情はあたしにとって、もっと抱きしめたいと思うものだった。
今、考人に伝えたい気持ちは……。