「加代ちゃん、おっかえり~」

恐る恐る玄関に足を踏み入れた瞬間、グレーのスーツ姿の母親が満面の笑みでリビングからひょっこりと顔を出してきた。

「た、ただいま」


こんな早くに母親が帰ってくるのはかなり珍しく。

しかも、何やらとても上機嫌な様子に益々不信感が募る中、とりあえず返事をすると、どこからともなく芳ばし香りが漂ってきた。


「あれ?お母さんなんか作ってる?」

私は鼻をひくつかせながら、眉間にシワを寄せる。

夕飯にしてはまだ時間的に早い気がするし、そもそもうちの母親は料理があまり得意ではないから、台所に立つことは滅多にない。


とにかく、いつもと明らかに違う状況に違和感を抱きまくる私は、自分の顔が益々険しくなるのを感じながら、匂いの発信元を辿りリビングへと足を運ぶ。