「加代ちゃんおかえり。……あ、隣にいるのってもしかしてお友達?」
突如頭上から降ってきた声に、私よりもいち早く反応を示す恵梨香。
その瞬間、まるで石像のようにピタリと体が動かなくなり、大きな目をさらに見開いて目の前の人物を凝視する。
そこには、深夜帰りで今起きたばかりなのか。
寝ぼけ眼を擦り、上下黒色スウェット姿の海斗さんが欠伸をしながら階段から降りてきたところだった。
そんな無防備な姿でさえも魅力的に見えてしまうのは、流石だなと。
そう感心していると、突然隣からゴトンと豪快に物が落ちる音が響き、私は思わず肩を震わせた。
「……あ、……あ。か、カイト……さんですよね。モデルの……」
待ち望んでいた人物がついに現れ、持っていた荷物を全て床に落とし、しばらく口をあんぐりと開けたままの恵梨香。
ようやく振り絞って出た声は震えていて、口元に手を充てながら瞬き一つせず真っ直ぐと海斗さんを見据える。
「そうだよ、本名は櫻井海斗。よろしくね」
そんな恵梨香に対し、海斗さんは寝起きだと言うのに何の躊躇いもなく、いつもの爽やかな笑顔を向けて右手を差し出してきた。
差し出された手を瞬き一つせずじっと見つめる恵梨香は、恐る恐る手を握り返した途端。
今にも泣き出してしまいそうな程、瞳が潤み始める。
「あ、あの……、白石恵梨香です。……あ、あたしずっと前からカイトさんのファンでしたっ!」
絶世の美少女が上目遣いでそんな事を言ってくれば、誰だって瞬殺だろうと思いきや。
やはりそこは強者で、海斗さんは全く動じることなく“ありがとう”の一言で恵梨香の手を軽く握り返す。
逆に海斗さんの眩しい笑顔にやられた恵梨香は、手を離した瞬間後ろへよろめき、私は咄嗟に彼女の背中を支えてあげた。
予想通りといおうか、改めて女性キラースマイルの威力に恐れ入ると、一先ず昇天しかけている恵梨香の意識を現実に引き戻す為、軽く肩を揺すってあげる。


