『傷だらけの少女は、初恋相手の幼馴染にドロ甘に溺愛される。』
【side憐夜】
「よーし作るぞー!」
「チッ……」
今日はいつものメンバーではなく、男子組で僕の家に集まっていた。
集まって何しているかというと、ホワイトデーのお菓子作り!
つーちゃんと結蘭ちゃんには確実に返すつもり。
ちなみに、舌打ちした最低な男はつーちゃんの彼氏の士綺クン。
あと、玲音クンも涼クンももらっているから半ば半強制的に参加。
「さーて、早速作るぞー! ね、士綺クンは何作るつもり〜?」
「うるせえ。安西には貰ってねえしいらねえだろ」
「それ結蘭が聞いたら暴れるぞ」
「意外と乙女ですからね……」
従兄の玲音クンは結蘭ちゃんの性格をちゃんと理解しているみたい。
それに比べて、人間に無関心な士綺クンはサイテーなことを言う。
「それにしても、つーちゃんからのチョコ美味しかったなぁ。僕甘いの苦手だからって、ビターチョコ使ったり、甘さ控えめにしてくれたんだよ? ほんと関心〜」
「チッ、今すぐ出せ」
「いやもうお腹の中! 吐くことになるって!」
「じゃあ腹殴るからな」
「ちょ待てぇぇ!!」
ヤバい、無謀に変なこと言ったら腹に重すぎるパンチ喰らうことになる。
というか、なんで涼クンと玲音クンは止めないの!?
「ちょっと涼クンたち! もうちょっと年上には優しくしてよ!」
「憐夜さん、傷塞がるの早いじゃないですか。大丈夫ですよ。きっと士綺さんも加減してくれますって」
「ああ。そもそも、百瀬の話を出したお前が悪い」
「いやどう考えても独占欲強すぎるこの男が悪いからね!?」
この中で一番狂ってんの士綺クンだから! 絶対!
「それより、憐夜さんたちは何作るんですか?」
「え〜? それ聞いちゃう〜?」
「涼、面倒になること言うな」
「え、すみません……」
「ちょい待ちよ! なんでそんなに当たり強いのさ!」
バレンタインデー終わった当たりからずっとそう。士綺クン、いつにも増して当たり強いよね?
「士綺さん、安西先輩にも貰ってないんですか?」
「……ああ」
ははーん。さては結蘭ちゃん、つーちゃんが嫉妬するからあげなかったな〜?
でも、士綺クンはそれに少し不満気。
士綺クンのことだもん、たぶん結蘭ちゃんから欲しいというか、つーちゃんに嫉妬して欲しかっただけだろうな。
「なんでお前らも作るんだ。椿月に余計なもん食わせるな」
「俺と玲音さんはそう言われると思って、市販のもの買ってますよ」
「士綺の嫉妬は末恐ろしいからな」
「嘘!? いつの間に!? 僕は愛マシマシのチョコプレゼントしよぉ〜」
うっそ〜。じゃあ士綺クン以外に渡すの僕だけじゃん。
「それに貰ったからお返しだよ? 士綺クンもさすがに……」
「お前の垢が入った汚ぇもん食わせんな」
「ひど!? だーかーら! 貰ったお返し! そもそも士綺クン何作んのさ!」
「椿月が好きなもん」
「へっ、絶対僕のほうが美味しくできるね!」
「ああ?」
絶対士綺クンより美味しく作ってやる!
【side椿月】
「つーちゃーん!」
「わっ、憐夜くん久しぶり〜」
今日は久しぶりにみんなで遊ぼうということで、結蘭ちゃんも含めて憐夜くんのお家に集まった。
「今日何すんの? 遊ぶものなんてあらへんで」
「チッチッチッ。今回は女子組にこれを渡そうと思ってね〜」
そう言って憐夜くんが取り出したのは、可愛くラッピングされた袋だった。
中身は、きっとお菓子だと思う。
しかも、憐夜くんだけじゃなく、玲音くんも涼くんも袋を取り出した。
「この前のバレンタインのお返しー! つーちゃんクッキーくれたから、僕もクッキーあげる!」
「えっ、いいの? ありがとうー! 涼くんも玲音くんもくれるの?」
「……お返しだ。他意はない」
「はい。決して変な意味ではないので」
涼くんと玲音くんは隣にいる士綺くんの表情を伺っていて、嫌でも心の内がわかる。
士綺くん、は……。
ただ玲音くんと涼くん、そして一番憐夜くんを睨んでいて、何かを取り出す様子はない。
……少し、期待していた。
でも、士綺くんのことだもん。こんな風潮に流される人じゃないってわかってる。
「えっ、うちにもくれるん!? ありがとさん! それにしても、なんで涼と玲音は市販なん? 作るの苦手なん?」
「いや……少し、事情がありまして……」
結蘭ちゃんは涼くんと玲音くんの表情を見て瞬時に察したらしい。
「あー……それは災難やな。まあまた来年楽しみにしとくわ」
「一年経っても変わらないだろ。長年両片想いを拗らせてきたんだぞ」
「ちょっ、玲音くん!?」
それって絶対私にも言ってるよね!?
あまりの不意打ちの言葉に、私の顔は熱を帯びてしまった。
両片想いって……まあ、合ってるけど……。
「つーちゃん顔真っ赤〜。かわいー」
「も、もう勘弁してよー……」
「憐夜、今すぐぶん殴るぞ」
「ちょい待ち」
しかも何がタチ悪いって、言った当の本人、玲音くんが何が悪いかわかっていないこと。
玲音くんはこの中で一番ピュアだ……。
「んー、このマドレーヌ美味しい! 涼くん、ありがとう!」
「いえ……とりあえず、もう少し離れてください。嫌ってわけじゃないんですけど、士綺さんが怖いので……」
「あ、ご、ごめん。ちょっと士綺くん! 睨んだらダメ!」
「ッチ……」
士綺くん、今日は機嫌悪いな……。
やっぱり、チョコ貰ったことが原因?
……でも、士綺くんはくれなかったじゃない。
心の中で不貞腐れながらも、私は士綺くんを連れて帰った。
もう絶対バレンタインあげない……と考えながら、玄関に入った瞬間───
「っ! んっ、うぅ……っ」
後ろから入ってきた士綺くんに抱きつかれ、振り返った瞬間に口を塞がれた。
何度も角度を変えて責めてくる大人のキスに、私は足の力が抜けて倒れ込みそうになる。
でも、サッと士綺くんが抱き抱えてくれて、私は倒れずに済んだ。
「……ずるい」
「何が」
私の中の不満も、士綺くんには伝わらないみたいで、より一層私は複雑に気持ちになる。
「……士綺くん、お返しくれなかったくせに」
「それで拗ねたのか」
「すっ、拗ねてない」
「嘘だ。帰ってくる途中、一言も話さなかっただろ。顔見たら百面相してるし、椿月が嘘をつくときの癖しか出てなかった」
「……う」
何それ……全部、知ってるじゃん。
「だって……士綺くんからのお返し、楽しみに、してたから……」
「……椿月こそ、他の奴から受け取りやがって」
「そ、それは、礼儀として当たり前だもん」
リビングまで連れて行ってもらって、ソファーに座る。
すると、士綺くんは首筋に顔を埋めてきた。
吐息がかかって、くすぐったい。
「椿月、愛してる」
そんなこと耳元で囁くから、私は赤面してしまう。
「顔、真っ赤」
そう言われるのはいつものことで、更に赤面させることを士綺くんは知っていて言っていくる。
「士綺くんのバカ……」
「知ってる」
耳を噛んだり、首筋に顔を埋めたり。
そんなの、ずるい。
「椿月」
「な、なに……」
急に起き上がるからビックリして閉じていた目を開いた。
すると、紙袋を取り出した。
「……くれる、の?」
「もちろんだ。椿月のチョコ、美味しかった。俺は椿月ほど上手く作れないが、一応作ってみた」
「……そんなこと言って、なんでもできるくせに」
「今日はいつにも増して甘えん坊だな」
「え……どこが?」
士綺くんは幼い笑顔を浮かべて私を抱きしめた。
「可愛いところ」
「……も、いいってばー」
「照れてるのも可愛い」
そんなこと言う士綺くんは、きっとこうなることを予想していたんだ。
ほんと、ずるい。
「士綺くん」
「なんだ?」
士綺くんのくれたお菓子は、小さくて可愛いドーナツだった。
それを食べると、さっきの不安も不満も全部飛んでいった。
「……ほんと、なんでもできちゃうんだから」
「美味しかったか?」
「うん。文句のつけようがないよ。士綺くんは、ほんと……」
甘い味。甘くて、蕩けそう。
「これは来年のハードル上がっちゃうなぁ」
「椿月のはなんでも美味い」
「その“美味いもの”を10倍返しにしてくるくせに」
「……今年だけだ」
私は手に持っていたドーナツを置いて、士綺くんに抱きついた。
「そんなのやだ。来年も、その来年もまた欲しい」
「俺もだ」
士綺くんとなら、どれだけ遠くの未来でも約束できる。
それが今の私の幸せ。
【side憐夜】
「よーし作るぞー!」
「チッ……」
今日はいつものメンバーではなく、男子組で僕の家に集まっていた。
集まって何しているかというと、ホワイトデーのお菓子作り!
つーちゃんと結蘭ちゃんには確実に返すつもり。
ちなみに、舌打ちした最低な男はつーちゃんの彼氏の士綺クン。
あと、玲音クンも涼クンももらっているから半ば半強制的に参加。
「さーて、早速作るぞー! ね、士綺クンは何作るつもり〜?」
「うるせえ。安西には貰ってねえしいらねえだろ」
「それ結蘭が聞いたら暴れるぞ」
「意外と乙女ですからね……」
従兄の玲音クンは結蘭ちゃんの性格をちゃんと理解しているみたい。
それに比べて、人間に無関心な士綺クンはサイテーなことを言う。
「それにしても、つーちゃんからのチョコ美味しかったなぁ。僕甘いの苦手だからって、ビターチョコ使ったり、甘さ控えめにしてくれたんだよ? ほんと関心〜」
「チッ、今すぐ出せ」
「いやもうお腹の中! 吐くことになるって!」
「じゃあ腹殴るからな」
「ちょ待てぇぇ!!」
ヤバい、無謀に変なこと言ったら腹に重すぎるパンチ喰らうことになる。
というか、なんで涼クンと玲音クンは止めないの!?
「ちょっと涼クンたち! もうちょっと年上には優しくしてよ!」
「憐夜さん、傷塞がるの早いじゃないですか。大丈夫ですよ。きっと士綺さんも加減してくれますって」
「ああ。そもそも、百瀬の話を出したお前が悪い」
「いやどう考えても独占欲強すぎるこの男が悪いからね!?」
この中で一番狂ってんの士綺クンだから! 絶対!
「それより、憐夜さんたちは何作るんですか?」
「え〜? それ聞いちゃう〜?」
「涼、面倒になること言うな」
「え、すみません……」
「ちょい待ちよ! なんでそんなに当たり強いのさ!」
バレンタインデー終わった当たりからずっとそう。士綺クン、いつにも増して当たり強いよね?
「士綺さん、安西先輩にも貰ってないんですか?」
「……ああ」
ははーん。さては結蘭ちゃん、つーちゃんが嫉妬するからあげなかったな〜?
でも、士綺クンはそれに少し不満気。
士綺クンのことだもん、たぶん結蘭ちゃんから欲しいというか、つーちゃんに嫉妬して欲しかっただけだろうな。
「なんでお前らも作るんだ。椿月に余計なもん食わせるな」
「俺と玲音さんはそう言われると思って、市販のもの買ってますよ」
「士綺の嫉妬は末恐ろしいからな」
「嘘!? いつの間に!? 僕は愛マシマシのチョコプレゼントしよぉ〜」
うっそ〜。じゃあ士綺クン以外に渡すの僕だけじゃん。
「それに貰ったからお返しだよ? 士綺クンもさすがに……」
「お前の垢が入った汚ぇもん食わせんな」
「ひど!? だーかーら! 貰ったお返し! そもそも士綺クン何作んのさ!」
「椿月が好きなもん」
「へっ、絶対僕のほうが美味しくできるね!」
「ああ?」
絶対士綺クンより美味しく作ってやる!
【side椿月】
「つーちゃーん!」
「わっ、憐夜くん久しぶり〜」
今日は久しぶりにみんなで遊ぼうということで、結蘭ちゃんも含めて憐夜くんのお家に集まった。
「今日何すんの? 遊ぶものなんてあらへんで」
「チッチッチッ。今回は女子組にこれを渡そうと思ってね〜」
そう言って憐夜くんが取り出したのは、可愛くラッピングされた袋だった。
中身は、きっとお菓子だと思う。
しかも、憐夜くんだけじゃなく、玲音くんも涼くんも袋を取り出した。
「この前のバレンタインのお返しー! つーちゃんクッキーくれたから、僕もクッキーあげる!」
「えっ、いいの? ありがとうー! 涼くんも玲音くんもくれるの?」
「……お返しだ。他意はない」
「はい。決して変な意味ではないので」
涼くんと玲音くんは隣にいる士綺くんの表情を伺っていて、嫌でも心の内がわかる。
士綺くん、は……。
ただ玲音くんと涼くん、そして一番憐夜くんを睨んでいて、何かを取り出す様子はない。
……少し、期待していた。
でも、士綺くんのことだもん。こんな風潮に流される人じゃないってわかってる。
「えっ、うちにもくれるん!? ありがとさん! それにしても、なんで涼と玲音は市販なん? 作るの苦手なん?」
「いや……少し、事情がありまして……」
結蘭ちゃんは涼くんと玲音くんの表情を見て瞬時に察したらしい。
「あー……それは災難やな。まあまた来年楽しみにしとくわ」
「一年経っても変わらないだろ。長年両片想いを拗らせてきたんだぞ」
「ちょっ、玲音くん!?」
それって絶対私にも言ってるよね!?
あまりの不意打ちの言葉に、私の顔は熱を帯びてしまった。
両片想いって……まあ、合ってるけど……。
「つーちゃん顔真っ赤〜。かわいー」
「も、もう勘弁してよー……」
「憐夜、今すぐぶん殴るぞ」
「ちょい待ち」
しかも何がタチ悪いって、言った当の本人、玲音くんが何が悪いかわかっていないこと。
玲音くんはこの中で一番ピュアだ……。
「んー、このマドレーヌ美味しい! 涼くん、ありがとう!」
「いえ……とりあえず、もう少し離れてください。嫌ってわけじゃないんですけど、士綺さんが怖いので……」
「あ、ご、ごめん。ちょっと士綺くん! 睨んだらダメ!」
「ッチ……」
士綺くん、今日は機嫌悪いな……。
やっぱり、チョコ貰ったことが原因?
……でも、士綺くんはくれなかったじゃない。
心の中で不貞腐れながらも、私は士綺くんを連れて帰った。
もう絶対バレンタインあげない……と考えながら、玄関に入った瞬間───
「っ! んっ、うぅ……っ」
後ろから入ってきた士綺くんに抱きつかれ、振り返った瞬間に口を塞がれた。
何度も角度を変えて責めてくる大人のキスに、私は足の力が抜けて倒れ込みそうになる。
でも、サッと士綺くんが抱き抱えてくれて、私は倒れずに済んだ。
「……ずるい」
「何が」
私の中の不満も、士綺くんには伝わらないみたいで、より一層私は複雑に気持ちになる。
「……士綺くん、お返しくれなかったくせに」
「それで拗ねたのか」
「すっ、拗ねてない」
「嘘だ。帰ってくる途中、一言も話さなかっただろ。顔見たら百面相してるし、椿月が嘘をつくときの癖しか出てなかった」
「……う」
何それ……全部、知ってるじゃん。
「だって……士綺くんからのお返し、楽しみに、してたから……」
「……椿月こそ、他の奴から受け取りやがって」
「そ、それは、礼儀として当たり前だもん」
リビングまで連れて行ってもらって、ソファーに座る。
すると、士綺くんは首筋に顔を埋めてきた。
吐息がかかって、くすぐったい。
「椿月、愛してる」
そんなこと耳元で囁くから、私は赤面してしまう。
「顔、真っ赤」
そう言われるのはいつものことで、更に赤面させることを士綺くんは知っていて言っていくる。
「士綺くんのバカ……」
「知ってる」
耳を噛んだり、首筋に顔を埋めたり。
そんなの、ずるい。
「椿月」
「な、なに……」
急に起き上がるからビックリして閉じていた目を開いた。
すると、紙袋を取り出した。
「……くれる、の?」
「もちろんだ。椿月のチョコ、美味しかった。俺は椿月ほど上手く作れないが、一応作ってみた」
「……そんなこと言って、なんでもできるくせに」
「今日はいつにも増して甘えん坊だな」
「え……どこが?」
士綺くんは幼い笑顔を浮かべて私を抱きしめた。
「可愛いところ」
「……も、いいってばー」
「照れてるのも可愛い」
そんなこと言う士綺くんは、きっとこうなることを予想していたんだ。
ほんと、ずるい。
「士綺くん」
「なんだ?」
士綺くんのくれたお菓子は、小さくて可愛いドーナツだった。
それを食べると、さっきの不安も不満も全部飛んでいった。
「……ほんと、なんでもできちゃうんだから」
「美味しかったか?」
「うん。文句のつけようがないよ。士綺くんは、ほんと……」
甘い味。甘くて、蕩けそう。
「これは来年のハードル上がっちゃうなぁ」
「椿月のはなんでも美味い」
「その“美味いもの”を10倍返しにしてくるくせに」
「……今年だけだ」
私は手に持っていたドーナツを置いて、士綺くんに抱きついた。
「そんなのやだ。来年も、その来年もまた欲しい」
「俺もだ」
士綺くんとなら、どれだけ遠くの未来でも約束できる。
それが今の私の幸せ。



