【番外編】傷だらけの少女は、初恋相手の幼馴染にドロ甘に溺愛される。

【side椿月】



「やっほー! 士綺くん見て、雪すっごく降ってるよ!」

「ああ、だな」



年が明けて、私たちはスキー旅行に来た。

来た場所は……雪と寒さで有名な北海道!



「つーちゃんはしゃぎ過ぎ〜……って、ほんとに真っ白だ!」

「北海道だから当たり前だろ」



憐夜くんに毒を吐く士綺くんは置いといてと……あれ?



「というか、なんでお前らまでいるんだ。今回は俺と椿月だけで旅行の予定だったんだぞ」



士綺くんに目線の先には結蘭ちゃん、涼くん、玲音くんたちが。

憐夜くんはグルグルと謎の踊りをしている。



「だって〜、旅行とか聞いて行かない選択肢なくなーいって話〜」

「クソが……部屋は譲らねぇぞ。二人でスイートルーム予約したんだからな」

「はぁい残念!! 僕たちはその隣の部屋陣取ってまぁす!」

「ふざけんな! 今すぐ帰れ」

「やぁだぴょぉぉん」



まさかの隣の部屋取ったなんて……。

士綺くんにはスイートルームじゃなくていいって言ったんだけど、二人初めての旅行だからって聞かなかった。

まあ、結局二人じゃなくなったんだけど……。



「なあ椿月、このお菓子めっちゃおいしいで! 天王寺の家のやつって言うてた!」

「ほんとだ、おいしい」



憐夜くんはお家のお菓子をたくさん持ってきてくれたみたいで、飛行機の中でもお腹に溜まった。

ちなみに憐夜くんたちと合流したのは飛行機に乗る前で、まさかの席が後ろだった。

士綺くんは呆れていたけど、私は全員と来れてよかったなぁ。



「チッ……椿月、早く荷物預けてスキー行こう。こんな奴ら放っておけ」

「おー、また酷い扱いだねぇ」

「玲音と涼は百歩譲っていいが、憐夜は帰れ。何しでかすかわからねぇ」

「なんでよ!」



涼くんと玲音くんは呆れた表情でまた士綺くんと憐夜くんを傍観する。



「ねえ玲音さん、俺ら完全に脇役ですよね? 誘われたから来ましたが、いらなかったんじゃ」

「……俺らは俺らで楽しもう」

「はい」



涼くんと玲音くんが可哀想……。

結蘭ちゃんはお菓子に夢中で、憐夜くんと士綺くんはいつものように喧嘩中。

これは……全員仲良くできそうにない……。



───



「おお〜」



リフトに乗って来た山は、真っ白な雪に覆われていた。



「ここって初心者コースでしょー? 士綺クン絶対初心者じゃないでしょ」

「……」

「えっ、士綺くんってスキーできるの?」

「少しやったことあるぐらいだ。そんなに上手くないぞ」

「なんで僕のことは無視するのさ」

「あはは……」



いつものように無視をする士綺くんに、ため息しか出なかった。



「玲音くんたちもやったことある?」



ちょうどリフトから降りてきた玲音くんと涼くんに尋ねると、コクリと頷いた。



「俺は少しならしたことあります。玲音さんはもう言うまでもないですよ」

「えっ、どうして?」

「玲音さんはスキーの選手で全国大会に出たことありますよ? 知らなかったんですか」

「え、そうなの!?」



初耳だ……というか、そんなに上手いんだ?



「じゃあ玲音くんに教えてもらおうかな。あっ、でも玲音くんは上級者コース行く?」

「……士綺に殺されそうだから上級者コース行く」

「え」



後ろを振り向くと、そこには今にも視線で殺してしまいそうな魔王様が。



「士綺くん威嚇しないで! そもそも玲音くんに教えてもらったほうが効率いいでしょう?」

「……俺のほうが上手い」

「でも士綺くん、少ししたことあるって……」

「たぶん、士綺の才能には逆らえない」



玲音くんが意味深にそう呟いたとき、結蘭ちゃんの大声が響いた。



「ぎゃぁぁ!!」

「結蘭ちゃん!?」



まさかの結蘭ちゃんが先に滑っていた。



「滑ってしもた! 玲音助けてぇ!」

「……ったく」



結蘭ちゃんは滑り落ちてしまったようで、減速ができないのかどんどん滑って行ってしまう。

どうしようとアタフタしていたら、隣から玲音くんが消えていた。



「れ、玲音くん!」



玲音くんは目にも追えぬスピードで雪の上を滑っていた。

速い……!



「勝手にどっか行くな」

「れおんん……!」



結蘭ちゃんは半泣きで、叫ぶ声だけが聞こえた。

遠くて見えない……たぶん玲音くんが助けてくれたから大丈夫かな?



「結蘭ちゃんが心配……私も行ってみよう」

「椿月、滑れるのか?」

「う……士綺くん、教えてくれる?」

「もちろんだ」



士綺くんはスキー板を手に持って熱心に教えてくれた。



「ひゃぁぁあ!」

「そうそう。椿月、飲み込み早いじゃないか」

「でもちょっと怖い……!」

「それは慣れるしかないな」

「そんなぁ……」



初めてするスキーは少し怖くて楽しかった。

でも、士綺くんが教えてくれたことが、一番嬉しかった。



「あれ、憐夜くん?」



リフトでまた戻ってくると、一人佇んでいる憐夜くんの姿が。

声をかけると、ビクリと肩を震わせた。

士綺くんは何かを察したのか、ニヤリと笑った。



「なんだ憐夜、怖いのか」

「はぁ!? 怖いわけないじゃん、この僕が!」

「一緒に滑ってやろうか?」

「滑るわけないだろこのバカ!」



憐夜くん、怖いってこと?

私はそっと憐夜くんに近づいて言った。



「一緒に滑る?」

「つーちゃんまで!? 僕怖くないってば!」

「でも憐夜くん、ちょっと震えてるよ?」

「いやっ、これは寒いだけで!」



顔を赤くさせている憐夜くんに、少し悪いけど可愛いと思ってしまった。



「私も最初は怖かったし……一回やってみたら怖くなかったりするよ!」

「だーかーら! 怖くないってば!!」

「じゃあ、先行っちゃうよ?」



もしかしたら本当に怖くないのかも……と思って先に行こうとすると、憐夜くんがニヤリとした。



「あ〜、やっぱり怖いなぁ〜。つーちゃん一緒に滑って〜! あと教えて〜! 付きっきりでね〜」

「うんっ、もちろんいいよ」



頼ってくれて嬉しい……なんて思っていたら、後ろから禍々しいオーラが。



「おい、誰が許可した。勝手に滑ろ。雪だるまにでもなれ」

「わ〜、こわーい。つーちゃん怖いよう。僕怖くて滑れなーい」

「あ、はは……?」



私でもさすがにわかる演技にため息が出る。

涼くんと玲音くん、結蘭ちゃんは下にいるし……。



「な、なら三人で滑ろう。ねっ」

「……椿月の可愛さに免じて許してやる。ただ半径三メートル以上近づくな」

「それ一緒に滑ってるって言わん」



───

【side涼】



「なんや小腹空いたな〜。椿月たち来たらちょっと軽食とろうや!」

「あの三人、喧嘩してなきゃいいんですけどね」



俺と玲音さんで滑っていたら、まさかの安西先輩までいた。

さすがに二人は気まづいから、玲音さんがいてよかったと内心思っている。

ただ、それ以上に心配なのはあの問題児三人。

天然の百瀬先輩じゃ、あの二人の喧嘩を止めることは不可能。

まあ、仲裁に入れば少しの時間稼ぎになるか?



「玲音さん、絶対あの二人バチバチですよね」

「ああ。俺の予想だと憐夜が怖がって滑れないとか言って百瀬に縋ってる。で、士綺と喧嘩してる」

「いやさすがにそんな嘘……」



そんな嘘つくわけない、と言おうとした途端、言えない状況になった。

なぜなら、少し見えたところにその三人の姿があり、滑りながら憐夜さんは百瀬先輩にくっついていた。

それで、隣にいる士綺さんが何かを言っている。



「……玲音さん、それ、たぶん当たってます」

「だな。逃げるか?」

「ワンチャン憐夜さんが殺されるので待ち構えておきましょう。さすがに士綺さんもそこまでしないと───」



前言撤回。確実に───




「ぎゃぁぁぁぁあああ!!」



───仕留めに来てる。


ゴロゴロと転がってくる憐夜さんの姿に、ため息どころではなくなった。

いや、下手したら死ぬって。

どうやら士綺さんが怒り溜まって蹴りを入れたらしい。

とにかく、助けないと木にでも当たって死ぬ。



「憐夜さん!!」

「憐夜」



二人で転がってきた憐夜さんを受け止めると、憐夜さんが抱きついてきた。



「怖い〜!! 見た今の!? 見たよね!? 僕雪だるまにさせられそうになったんだけど!? ありえない、死ぬって!!」



さすがにその通りだ……とは言えずに、俺たちは目を合わせることしかできなかった。

その中、士綺さんと百瀬先輩が降りてきた。

士綺さんはしてやったりという顔をしていたけど、百瀬先輩は今にも泣きそうな顔をしていた。



「大丈夫憐夜くん!? 怪我は? 意識ある? そんなことより救急車……!?」

「あのぅ……つーちゃん?」

「どうしよう! もし骨とか折れてたら!?」



憐夜さんが苦笑いしながら声をかけるも、パニックになっている百瀬先輩には聞こえていない様子。

骨折れてるかって……たぶん俺と玲音さん、士綺さんは完璧にわかっている。

憐夜さんが完璧なる受け身を取っていたのを。

怖い痛いって嘘ついてるけど……実際は受け身取ったところしか痛くないはず。

しかも憐夜さんがあの高さで怖いと思うわけがない。



「うぇーん、つーちゃん怖かったよう」



……で、憐夜さんはその百瀬先輩を騙して使おうとしている。

どうせ士綺さんへの当てつけだろう。いつもみたいに。



「おい憐夜、椿月に抱きつくんじゃねえ」

「うぇーん! 痛いよう、怖いよー! つーちゃん、あの怖い奴成敗してぇ」



普通の奴なら騙されない大根演技だが……。



「もっ、もちろん!」



正義感が強くて、その上天然で騙されやすい百瀬先輩なら別。

0コンマ数秒で百瀬先輩は憐夜さんを信じた。

その圧倒的な騙されっぷりにはため息が出る。

実際に安西先輩がため息を盛大についていた。



「なあ椿月、これ完全に……」

「士綺くん!」



安西先輩がそっと教えようとしたとき、百瀬先輩が士綺さんに向き直った。



「憐夜くんにちゃんと謝って! 誠心誠意、ちゃんとね!」

「は? なんでこんな演技に……」

「危うく死んじゃうところだったんだよ!? ふざけててもしてはダメなことがあるでしょう?」

「いや、憐夜は……」



士綺さんは百瀬先輩の怒りっぷりにもうタジタジ。

あー……いつもこんな感じなのか。

あざとい憐夜さんの考えていることなんて、百瀬先輩以外、全員がわかっている。

士綺さんもわかっているから蹴り飛ばしたんだろう。

つまり、今回の一番の被害者は───。



「ちゃんと謝るまで口聞かないからね!」

「なっ、おい、椿月……!」



正真正銘、士綺さん以外にいない。

百瀬先輩はそれに上手く利用されただけの可哀想な……まあ、一人の被害者。

さてと、まあ……今回俺らが口出しできる問題じゃないな。



「おい涼! どうにか弁明しろ。憐夜てめえ騙しやがって」

「なぁんのことぉ? ほらぁ、それより早くお昼食べなーい? あいたた、背中が痛いなぁ。つーちゃん肩貸してくれる〜?」

「もちろん! 大丈夫? 救急車とか呼ばなくていい?」



案の定、百瀬先輩はチョロ甘だからすぐに騙された。

憐夜さん、今回かなり攻めてるな。



「救急車までは大丈夫なんだけどぉ、でもすんごく背中痛いなぁ」

「あとでまた士綺くんに言い聞かせておくからね! もうホテルで休む?」

「つーちゃん一緒に来てぇ」

「わかった。じゃあ私───」



いいように使われる百瀬先輩にさすがに我慢の限界だったのか、士綺さんが百瀬先輩の手を引いて抱きしめた。



「ちょっ……何やってるの士綺くん!? 私、口聞かないって言った!」

「こんな甘い演技に上手く乗せられてんじゃねぇよバカ」

「バカって……!」



あーあ、士綺さん完全に怒ってる。

そう確信するほどに恐ろしい顔をしていた。



「おい憐夜、お前覚悟してんだろうな?」

「えっ、待て待て待って。いや、あのぉ……あ、背中痛いなぁ」

「『あ』じゃねぇよ。本気で骨折ってやろうか?」

「ギャッ!」

「ちょっと士綺くん!」



憐夜さんは案の定というか、完全に天罰が下っていた。



「おい、椿月に今すぐ弁明しろ。じゃなきゃこのまま骨折るぞ」



小声で憐夜さんにそう脅した士綺さんは、完全に百瀬先輩を見る目ではなかった。

うわ……久しぶりに百瀬先輩がいるところで凶悪な顔してる士綺さん見た。さすが“百獣の王”と恐れられるだけある。

その恐ろしさに当てられ、さすがの憐夜さんも焦っていた。



「つーちゃんほらぁ、僕って細いしか弱いじゃん? だから心配して欲しかった〜みたいなことでぇ〜」

「おい、自分を守ろうとしてんじゃねえ」

「ひぃ」



あの憐夜さんが自分から曲がりに行くとは思ってもみなかった。

まあでも、からかうのはここら辺で終わりだと察したからだろう。

いつも士綺さんをからっているけど、ちゃんと引き際を見ているから、実際士綺さんに処されていないだけ。

あれ以上、これ以上やったら……なんてことは嫌というほど見てきた。

一度本気で殺されそうになったことがあるから、それ以降、憐夜さんはちゃんと引き際を見ている。

だけど今回は、少し遅かったみたいだ。



「チッ……椿月、早く飯食って買い物行こう。欲しがってたブランドの服、限定色があるらしいぞ」

「えっ、私、可愛いって言っただけで欲しいなんて一言も……。それに、憐夜くんは……」

「放っておけ。一回くらい反省させなきゃダメだ。今日のランチは二人っきりだな」

「う、うん……」



物欲のない百瀬先輩のことだ、欲しいだなんて一言たりとも言ったことないだろう。

そんなことより、俺らは置いて行かれるわけ?



「玲音さん、どこで昼飯食います? やっぱ北海道なんで海鮮系?」

「とりあえず憐夜を励ます」



憐夜さんはイタズラが失敗し、少し落ち込んでいた。

いや、本当に“少し”なんだが。

士綺さんたち二人は足速に去ってしまい、結局四人残った。

まあ、今回は二人旅行の予定だったらしいから、俺たちは邪魔者か。



「憐夜、どこ食べに行く? 結蘭もリクエストあるか?」

「んー? うちはどこでもええで! それにしてもなんや やりきれんなあ。うち椿月の親友やん? 何かと誘い受けるけど結局は置いてかれるやん。なんや悲しいわぁ」

「それは仕方ない。士綺は独占欲の塊だからな」

「それはうちかて百も承知や。けどやっぱ悲しいわ」

「はぁ……今日は二人の慰め会だな」

「ですね」



安西先輩の言っていることもわかる。毎回置いて行かれるのは俺と玲音さんも一緒だから。

でも、士綺さんの嫉妬の目は狂っていて、どこにいても監視されている気しかしない。

百瀬先輩に誘われたら行っているけど、実際最後は二人のイチャイチャを見せつけられているだけ。

いや、実際見せつけてるんだ、士綺さんは。

俺ら……特に憐夜さんを一番危険視していて、牽制するために呼ぶことを許しているのだろう。



「はぁ……今日は二人のっていうか、俺ら全員の慰め会ですね」



ため息をつきながらも、片付けのためにスキー板を手に持った。



【side椿月】



「ちょっと士綺くん……! どこ行くの?」



士綺くんはどうやら不機嫌なようで、私の手を引いて離さない。

さっきの……私、憐夜くんに騙されたらしい。

それは全然許すんだけど……士綺くんを責めてしまったこと、謝らなきゃ。



「し、士綺くんっ! ごめんね、さっきのこと。私てきっきり……」

「ん」

「え?」



士綺くんが私のほうに振り向いたと思ったら、顔を近づけてきた。

か、顔がいい……!



「謝るんなら、椿月からキスして」

「へっ……!?」



顔を近づけてくるからなんだと思ったけど、そんな欲求が返ってくるなんて思いもしなかった。



「こ、ここ人多いしやだ……」

「……」



途端にしゅん……と塩らしい反応をした士綺くんに、頭の中がグルグルになった。



「わ、わかったよ……」



私は勢いに任せて士綺くんの頬にキスを落とした。

すると、士綺くんは本当にするとは思っていなかったのか、驚いた表情をさせていた。



「……ヤバい、破壊力があり過ぎる」



嬉しそうにしている姿に、なんだか全部がどうでもよくなった。



「お昼ご飯どうする? 士綺くんは何食べたい?」



もうお昼だしどこも混んでそう……と思いスマホを開くと、士綺くんが歩き出した。



「こっちってなぁに? 士綺くん、行きたいところがあるの?」

「は? もう予約してるぞ? 椿月を待たせるわけないだろ」

「えぇっ!?」



予約してるって……そんな早い話ある?

さすが士綺くん……用意周到すぎる。



「椿月、海鮮系は苦手だろ」

「へ……」



何ここ……個室?

海鮮系とかかなって思ったけど……まさかのラーメン!?

普通、ラーメン屋さんに個室なんてないだろうに……。



───



「じゃあ、そろそろ戻ろうか」

「ああ、だな」



もう夕方の5時。ホテルに戻らなきゃ。

歩き出したとき、士綺くんのスマホが鳴った。



「チッ……椿月、ちょっとあそこで待っててくれ。迷子になるなよ」

「迷子になんてならないよ!」



頬を膨らませると、士綺くんは私の頭を撫でてトイレ付近のほうに行ってしまった。

余程聞かれたくない内容なのかな? でも、詮索するのは違うよね。

イスに座って待っていると、私に影が落ちた。



「もう終わったの……っ、え?」



誰かと思って顔を上げれば、そこには顔に傷がある大きな男の人が三人立っていた。



「おい嬢ちゃん、ずいぶん可愛いじゃねえか。俺らの仕事、手伝ってくんねぇ?」

「えっ、お仕事……?」



一体急になんだと思った、けど……この人たち、そういう類の人?

見た目は誰が見ても……そう、ヤクザみたいな恐ろしい顔。

ガタイがとにかくよくて、女の私なんかじゃ敵わない。



「その……私、何かしましたか?」

「なぁに、さっきかっこいい兄ちゃんといただろ? なんか見たことあると思ったら、獅子堂家の嫡男じゃねえか。俺ら獅子堂家には恩があってなぁ……その“お礼”をしなきゃな?」

「お礼……?」



もしかして……士綺くんがしていた仕事の話?

お父さんから仕事をもらってやっていたと言っていたけど……それ関係の人?

どっちにしろ……感謝のお礼、ってわけではなさそう。



「私なんか、何のお役にも立てません。他を当たってください」

「……チッ、こっちが下手に出てやってんのに。悪いな嬢ちゃん、こんなとこで荒事するわけにはいかねぇんだよ。痛い思いしたくなかったら早くついて来い」

「いたっ……!」



腕を強く掴まれて、反射的に声が出た。

涙が出そうになったとき、私の腕を掴んでいた男の人が急に倒れた。



「だ、大丈夫ですか!?」

「アニキ……!」



後ろを振り返ると、眉間に皺を寄せた士綺くんの姿が。



「荒事がなんだ? 俺の恋人に手ぇ出すってことは、死ぬ覚悟ぐらい持ってきてんだろうな?」

「てめえ、アニキに何しやがった!」

「あ? ちょっと失神させただけだろうが。殺さないだけありがてぇと思え」

「士綺くん……!」



目に涙を浮かばせると、士綺くんが私の肩を抱いた。



「椿月、遅くなって悪い。……涼から何の電話かと思えば、工藤の奴がここら辺徘徊してるっていうから戻ってみれば……まさか俺の女に粉かけてるとはなぁ?」

「チッ……に、逃げるぞ!」



男の人たちは阿鼻叫喚しながら去って行った。

さすが士綺くん……怖い大人も顔負けの恐ろしさ。



「椿月、大丈夫か? ごめんな、怖かったよな」

「……ふふっ」

「ん? どうした? 何か面白いことでもあったのか?」

「新年早々、士綺くんの怖いとこ見て面白いなぁって。さすが“百獣の王”」

「……」



からかうと、士綺くんは無言になった。

あれ……言い過ぎちゃったかな?



「椿月」

「っ、ひゃっ!?」



士綺くんに首筋を甘噛みされて、そのままキスされた。



「えっ、ちょっと!」



鏡で確認すると、赤いキスマークがくっきりとついていた。

ああっ!? こんな見えるところに!?



「何してるの士綺くん!? これからホテル戻って夕飯だよ? 憐夜くんたちに見られちゃう!」

「見られたら牽制にもなるしな。一石二鳥」

「どこが! 私は困り果ててるよ!」



怒りながらも、士綺くんの手は握って離さなかった。

そして、ホテルに戻って───。



「士綺クン、お年玉ちょーだい?」

「チッ」

「あいだっ!」



可愛くおねだりする憐夜くんに、士綺くんはまた蹴りを入れたのでした。



「今年一年もまた波乱の予感……」

「予感というか、事実なんですけどね」

「まったくだ」

「ほんま子供やなぁ」



そんな話をしながら、新年を北海道で過ごしたのでした。