【side椿月】



「メリークリスマス!」



今日は待ちに待ったクリスマス!

……ということで……。



「ま、結局このメンバーだよね」

「あはは……」



憐夜くんの言葉に苦笑する。

ハロウィンも何もかもこのメンバーだもんね。

ということで、いつものメンバーでクリスマス会!

会場はジャン負けで士綺くんのお家ということになった。

まあ、一応私は居候の身なんだけど……。



「チッ、今日こそは椿月と二人で過ごす予定だったのに……」



今日は24日で、正確なクリスマスじゃない。

明日25日のクリスマスは、士綺くんと二人で過ごす予定。

でも士綺くんは今日も二人で過ごしたかったよう。



「まあまあ、士綺クンは明日もつーちゃんの可愛い衣装見れるしいいじゃん。本当なら明日にクリパしたかったけどね」

「明日を譲るわけねぇだろ。椿月に頼まれたってごめんだ」

「嘘だ〜。士綺クン、つーちゃんに弱々だから頼まれたらイチコロでしょ」



またもや二人の言い争いが発展し、私はそろーっと目を離した。

そしていつものように私と涼くんと玲音くんで眺めている状態。



「……こいつら、本当に大学生か?」

「一応ですね。精神年齢は相当低いです」



玲音くんと涼くんはため息をついて、遠巻きに二人を見ている。



「ほら二人とも、はよ準備せーや」

「あっ、結蘭ちゃん」



結蘭ちゃんは隣の部屋で先にクリスマスツリーの準備中。

大声を聞いてこちらに来たのだろう。



「まったくもう、いつまで経っても子供やん。この子のほうがよっぽど可愛ええわ」



そう言って同じ部屋から出てきたのは小さな男の子。

どうやら結蘭ちゃんの弟らしく、玲音くんの従弟に当たる。

ギュッと結蘭ちゃんのスカートを掴む姿に目がくらみそう。



「ふふっ、ほんとに可愛いなぁ。私もこんな可愛い弟が欲しかったな〜。そういえば何歳だっけ?」

「この前7歳になったんやでー。やっぱ歳が離れてる分、可愛ええと思うんやな〜」

「7歳ってことは小学一年生? ふふっ、とっても可愛い」



ほっぺたを赤くして、小さなサンタクロースの衣装を着ている姿はまるで天使。



「ねぇね、お菓子食べたい……」



ねぇね、と結蘭ちゃんを呼ぶ姿も可愛い……!

しかも関西の生まれだからか、少し関西弁のところもまた可愛い……。



「お菓子? お姉ちゃんグミ持ってるよ! 食べる?」

「グミ……!」



グミをカバンから出すと、てってっと走って私に抱きついてきた。



「グーミっ、グーミ……!」

「くっ、可愛い……!」



あまりの可愛さに悶えていると、結蘭ちゃんが苦い顔をしていることに気づいた。



「椿月に子供が生まれたらこんな感じなんやろか。なんや複雑やな」

「俺も同意見だ」



玲音くんもまさかの同意に、私は少しショックを受けた。

『こんな感じ』ってどんな感じ? 私そんなにおかしい態度してた?



「お姉ちゃん、優しい人……大好き……」

「くぅっ……!」

「おー、死んだやん」



グミをモグモグと食べながら抱きついてくる姿は、本当に本物の天使。

可愛い……とにかく可愛い。



「おい、椿月に抱きつくな」

「ひ、ひっ……!」



すると後ろで禍々しいオーラを感じて振り向くと、そこには威嚇する士綺くんが。

大人でも泣き出すレベルの士綺くんのオーラに、涙目になっていた。



「ちょっと! 楓(かえで)くんが怯えてるでしょ! 次威嚇したら士綺くんのこと嫌いになるからね!」

「なっ」

「あっはは! 言われてる言われてる! ざまあないね〜」

「……」



憐夜くんが士綺くんを煽っていたら突然、楓くんが泣きそうな顔をして指をさした。

その指先には、憐夜くんと士綺くんの姿。

どうしたのかと疑問に思ったとき、小さな楓くんの唇が開いた。



「このお兄さんたち……悪い人……」

「えっ」



まあでも、士綺くんに威嚇されたもんね……悪い人と勘違いされても仕方ない。



「赤い、髪の人も怖い……」

「えっ、僕!? なんで!?」



憐夜くんは傷ついたように楓くんに詰め寄る。

すると、楓くんは後ろに下がった。

後ろに下がった先には涼くんが。



「士綺さんたちがくだらない喧嘩繰り返すからじゃないですか? 子供って意外と勘がいいらしいですよ」



涼くんがしゃがみ込んで楓くんの顔を覗き込むと、楓くんはまた泣きそうな顔に。

無害な涼くんも怖いの? そう問い掛けそうになったとき、楓くんがか細い声で言った。



「この人も、怖い人……!」

「「……えっ?」」



私と涼くんの間抜けな声が響いて数秒の沈黙後、当たりは大笑いに包まれた。



「あっはははは! ほんとに子供って勘いーね、涼くん」

「いや、俺何もしてないんですけど……」

「腹の底見破られたんだろ」



三人がぎゃあぎゃあと騒いでいる間、楓くんは方向を変えて玲音くんに抱きついた。



「れおんお兄ちゃんが一番好き……」

「……」



足に抱きついた楓くんのことを無言で抱き上げる玲音くんの姿は、まさにお父さんのよう。

子供ってそんなに勘がいいんだ……や、やっぱり玲音くんは優しいから?



「一応、楓と玲音は一回大阪で会ったことあるで。でも楓は5歳の頃やから覚えてへんやろうな」

「ふふっ、玲音くんが好かれる理由、なんとなくわかるなー。無口でクールでも、雰囲気が優しいんだもん」

「それうちもちょっとわかるわー。獅子堂は当然のことのように怖いし、天王寺もあの笑顔から怖さが滲み出てんねん。涼も腹の黒さがニセモノの笑顔から浮き出てるわ」

「女性陣辛口評価すぎないー? 泣いちゃうよ僕ー」



結蘭ちゃんの辛口評価に、憐夜くんは口を尖らせていた。

その間に玲音くんは楓くんの可愛さにやられたのか、肩車をして遊んでいた。



「れおんにぃにだーいすき」

「……」



玲音くんは相変わらずの無口だけど、その表情は見たことないくらい緩んでいた。



「この明るい雰囲気、なんや詩織(しおり)に似てんなぁ」

「───っ」



でも、結蘭ちゃんが玲音くんにそう言った途端、玲音くんの表情が曇った。

『え、どうしたの?』と言いかけたけど、悲しそうな玲音くんの表情に、辺りはシン……となった。



「え、あ、いや……ごめん、その、悪気はないねん……!」



その結蘭ちゃんの慌てっぷりに、何かあったのかと誰でもわかる状況だった。



「……ちょっと、外の空気吸ってくる」

「あっ、玲音くん……!」



玲音くんは言い放ち、楓くんを下ろして外に出て行ってしまった。



「玲音……」



やってしまった、という表情をする結蘭ちゃんはどこか悲しそうで。

憐夜くんと涼くんは、どこか傷ついた表情をしていて。

士綺くんは、呆れたような表情を結蘭ちゃんに向けていて……。

何がなんだかわからない私は、たった一人、取り残されていくだけ。



「え、っと……玲音くん、どうしちゃったんだろうね……」



場の空気を変えたくてそう言ったけど、結蘭ちゃんは唇を噛み締めていて……。



「……なんであんなこと、言ってしまったんやろ。うち、ほんまアホや……」

「結蘭ちゃん……」



私は何があったのか知らない。

でも……。


『……ちょっと、外の空気吸ってくる』


あんな傷ついた顔を見たら、嫌でも何かあったんだってわかる。

きっとみんな、知ってるんだ。



「私、玲音くん連れ戻してくる!」

「椿月!?」



私は士綺くんの言葉をスルーして、部屋から出た。

走って玲音くんの姿を探すけど、中々見つからない。

詩織さんって、誰だろう。……わからない。

でも、わからないからって、あんな傷ついた玲音くんを独りにしたくないよ。

必死に走っていると、廊下を曲がったところに玲音くんが立っていた。



「あっ、玲音くん!」

「……百瀬?」



驚いた顔をした玲音くんは、どこか悲しそうな表情をしていた。

見つかったことに安心すると同時に、その表情に胸が痛む。



「玲音くん、大丈夫かなって……。ごめん、余計なお世話だよね。でもほら、今からパーティーもするから気分も晴れるかなって」

「……ありがとな」



玲音くんは気を使ってくれたのか、来た道を戻った。

でも、その背中はやっぱり悲しそうで。

私はつい、玲音くんの手を掴んでしまった。



「っ、百瀬?」

「あ、ごめん……!」



私は玲音くんの手を離した。

でも、この悲しい表情のまま帰らせたくない。

せっかくなら、嫌なこと忘れてクリスマスパーティーを楽しんで欲しい。

私はそんな気持ちを必死に言語化した。



「あのさっ、たくさんお菓子もあるし、玲音くんの好きなパフェとか作るよ! だからっ」

「?」



急に好物の話をし始めた私を怪訝そうな目で見てくる玲音くんに、私は突如として恥ずかしくなった。

何言ってるんだろ! こういうこと言いたかったわけじゃないのに……!



「その……辛いときは、私でもいいから話して欲しいなっ。力になれないかもだけど、話すだけならほら……あっ、そう、私はただの壁だと思って!」



恥ずかしさの勢いに任せて口を走らせると、玲音くんはブフッと吹き出した。



「ははっ、あははっ……」

「へ……」



笑っ、てる?

よかった……なんでかはわからないけど、とりあえずは元気を取り戻してくれたみたい!



「ほんと、士綺が惚れる理由がわかるわ」

「え?」

「なんでもない。こっちの話」



玲音くんは明るい笑みを浮かべたまま、私の前を歩いた。



「れ、玲音……!」



部屋に戻ると、結蘭ちゃんが少し安心したような、でも少し複雑そうな顔をして玲音くんに駆け寄った。



「その……玲音のこと、気にせんと発言してほんまごめん……。別に玲音を責めたいわけちゃうねん! それだけは……」

「わかってる」



結蘭ちゃんの慌てた言葉を、玲音くんは小さい子を諭すように優しく遮った。



「結蘭は何も悪くない。……あんなことが起こったのは、全部俺のせいだ」



その言葉は、自分を責め立てるような言い方にしか聞こえない。

私は玲音くんの過去、全然わからないよ。

でもきっと、玲音くんも……みんな、辛い思いしてきたんだなってわかる。

それを教えてくれないのは少し悲しいけど、傷ついていることを掘り返したくはない。



「玲音くん、私、いつでも壁役するからね」

「は……」



私は玲音くんの服の裾を掴んでそう言った。

それと当時に、急に士綺くんが憤慨した。



「おい玲音、一体何があったんだ」

「……士綺が怒ること」

「あ?」



玲音くんが小さく呟くと、その言葉に反応した士綺くんがまた怒り出した。

そんな姿を見ていると、結蘭ちゃんが二人の背中を叩いた。



「ほら、さっさとパーティーすんで! アイスもケーキも食べ放題や!」

「やったー!」



全員がジュースの入ったコップを持って、腕を高く掲げた。



「「かんぱーい!!」」

「「乾杯」」



涼くんと玲音くんの少し落ち着いた声に、もう少しテンション上げてもいいのになぁ……と思う。

私はそんなことよりも……としゃがみ込んで楓くんと同じ目線になる。

私はそっとコップを差し出した。



「楓くん、お兄さんたちよりも大きい声でね。せーのっ、かんぱーい!!」

「か、かんぱい!」



玲音くんと涼くんよりは圧倒的な大きな声を発揮した楓くん。

カチンッとグラスを合わせて、ニコッと笑う姿はまさに天使だった。



「可愛いなぁ……私の弟にしたいくらい」



そう呟いたとき、チュッとリップ音と共に私の頬に温かい唇の感触が。

バッと隣に目を向けると、楓くんがニコニコと笑っていた。



「ぼく、つばきお姉ちゃんとけっこんする!」

「へ……ぇぇえぇ!?」



可愛い瞳を向けられて、私は硬直した。



「楓、椿月姉ちゃんと結婚したいんか〜。まあ10くらい歳離れとっても今の時代大丈夫やろ」

「え、いやいやいや!」



私には士綺くんがいるし……って、当の本人である士綺くんのお顔が……!

とてもとても綺麗なお顔は怒りのせいで眉間に皺が寄ってるし、相手が小さな子じゃなかったら今にも襲いかかりそう。



「てかつーちゃんも満更じゃないでしょー! こーんな可愛い男の子に迫られたらねー」

「そんなことないよー!」



ついムキになっていると、楓くんが涙目になっていることに気づいた。



「つばきお姉ちゃん、ぼくのこと、嫌い……?」

「き、嫌いなわけないよ! うーんでも……そうだなぁ……」



私は意を決して口を開いた。



「もし楓くんが大人になったときに忘れてなかったらかな。それに、お姉ちゃん別の人と結婚しちゃうかも!」

「えー、しないでよ〜……」

「ふふっ、楓くんが大人になったとき、私がまだ独身なら結婚しようね」



そういうと、楓くんは花が咲くような微笑ましい笑顔を浮かべた。



「うんっ! ぼく、大人になってもお姉ちゃんのこと好きだから!」

「ありがとう」



可愛いなぁと思うのと同時に、私は士綺くんのいる扉側に目を向けられなかった。

士綺くん、さすがに子供相手に手は出さないと思うけど、さっき本気で威嚇してたし……少し不安。

と、思ったけど、何もなくパーティーは始まった。



「はーい、プレゼント交換〜!」



みんな全員そそくさとプレゼントを出すと、憐夜くんが声を上げた。



「せーのでくじ引いて、同じ色の棒だった一人と交換ねー! はいどーん!」



憐夜くんが出したお菓子の缶には棒が。

7人だからどうしよう……と思っていると、楓くんはいつの間にか夢の世界へ。

あとでたくさんのお菓子を渡してあげようと決めて、全員で棒を持つ。



「じゃあいくよ? せーのっ!!」



バッとくじを引いた結果、私は紫色の棒だった。

誰がペアだろう……と見渡すと、私の相手は涼くんだった。



「涼くんが相手だ! ふふっ、涼くんとプレゼント交換なんて初めて〜」

「どうも……」



涼くんはチラチラと士綺くんを見て反応を気にしていた。

みんなのペアはというと、結蘭ちゃんと憐夜くん、玲音くんと士綺くんというペアに。



「天王寺と交換? なんか変なもの出しそう」

「なんてことを〜!」



二人が賑やかにしている後ろで、士綺くんがジロリと涼くんを睨んでいた。



「俺、今日命日だったりします?」

「あはは……そんなことにはならないから安心して〜……」

「信用ないんですが」



一応大丈夫……だと思う。

私はチラチラと士綺くんの様子を伺いながら、涼くんにプレゼントを渡した。

涼くんのプレゼントも受け取って、お互いその場で開く。



「うわぁ……綺麗な時計……!」

「そうですか? 無難だと思いますけど」



涼くんのプレゼントは綺麗な夜空がバックの時計だった。

すごいオシャレ……! 男女関係なく使えそうだし、さすが涼くん。



「なんだか値段が合ってないように感じるけど……私からは、自作のピアス。その……気に入らなかったら全然捨ててもいいから!」

「いえ……まあ士綺さんの前では付けられそうにないですけど、ちゃんと付けますよ」



優しいな涼くん……! と感激する手前、とても申し訳なかった。

結構ちゃんとした部品で作ったけど、さすがにこんな豪華な時計ほどの高い代物ではない。

やっぱりちゃんとした物買えばよかったな……。

そんな私の様子から感じ取ったのか、涼くんは少しそっぽ向いて口をおもむろに開いた。



「まあ……結構いいデザインだと思います。……ありがとうございます」

「ほんと!? 嬉しいっ、ありがとう!」

「なんで百瀬先輩がお礼言ってるんですか」



こうしてプレゼント交換は終わった……けど、私はずっと士綺くんと二人になる機会を伺っていた。



「天王寺〜、プレゼントハンカチって無難過ぎやない? 涼見習えや! うちもオシャレなん欲しかったわ!」

「結蘭ちゃんの赤いマフラーだって無難でしょ! 士綺クンとかだったら絶対つけないよ!」

「獅子堂のこと思って選んでへん!」



ジュースやお菓子を食べながら横目でチラリと士綺くんを見る。

すると、士綺くんはふらっと部屋から出て行った。

そのあとを追うと、士綺くんは玄関外に出ていた。



「あのー、士綺くん?」

「椿月? 寒いから中入ってろ。風邪引くぞ」

「そんなの士綺くんも一緒でしょ」



私は士綺くんの隣に座って冷たい手に触れた。



「ほら、士綺くんの手、冷たいよ。風邪引いちゃう」

「……俺、嫉妬中なのわかってんだろ。頭冷やすために外出たんだ」

「えっ」



“嫉妬中”。その言葉がまさかそんなにするりと出てくるなんて……と思ってキュンとしてしまった。

可愛い……最近、士綺くんが嫉妬したときの反応が可愛くて……。



「あの、これ……士綺くんへのクリスマスプレゼント」

「……くれるのか?」

「もちろんだよ! 涼くんにあげたのは交換用のやつ。こ、恋人用のくらい用意してるよっ」



自分から恋人と言って恥ずかしい〜。なんて思っていたら、いつの間にか士綺くんの腕の中にいた。



「えっ、士綺くん?」

「……あんなガキに嫉妬とか、俺も情けねえ」

「え……楓くんのこと?」



そう聞くと、鼻をムギュっと掴まれた。



「ちょっ……」

「わかってるのに聞くとかズルい」

「っ……」



いつもより幼く見える士綺くんに胸が高鳴る。



「そっ、それでね! プレゼントは私が編んだマフラーで! その、気に入らなかったらごめんね!」



恥ずかしさに早口になってしまう。

その私の挙動不審な様子を見て、士綺くんは笑っていた。



「あと……私は、士綺くんが好きだから」

「どうした、急に」

「さっきの楓くんのは、その……ほら、子供相手だしね!」



そう言うと、士綺くんは呆れたようにため息をついた。



「椿月、意外と子供って幼い頃の約束は覚えてるもんだぞ。もし楓が大人になったとき覚えてたらどうすんだ」

「えっ、ほんとに覚えてるの……!?」



だとしたら、私最低……!?

ワタワタとしているところを見て、士綺くんはまるで愛おしいものを見るような視線を向けてきた。



「椿月、俺からもプレゼントある」

「えっ、くれるの……!?」

「当たり前だろ」



士綺くんがそう言って取り出したのは、小さな箱だった。



「えっ、指輪!?」

「……ペアリングな」



危ない……期待、してしまった。

でも、そうだよね。

士綺くんが、クリスマスのムードとかに流されてプロポーズするわけない……。

士綺くんは周りを気にしないから……。

少し悲しい気持ちになって下を向いていると、ポンッと士綺くんの大きな手が頭に乗せられた。



「……左のほうは、取ってるだけ。ぜってぇ左手にも指輪、付けてやる」

「えっ……」



それって……。

バッと士綺くんを見ると、士綺くんは少し赤い顔をしていた。



「士綺くん、大好きっ!」

「っ」



ギュッと腕に抱きつくと、士綺くんが息を呑む音が聞こえた。



「椿月」



優しくそう呼ばれて頭を上げた。

士綺くんの長い指が私の唇に触れて、下にズレて……。

綺麗な形の唇が目の前まで迫ってきて、私はそっと目を閉じた。



「愛してる」



お互いの温かい唇がそっと、ゆっくりと重なった。