【side椿月】
「メリークリスマス!」
今日は待ちに待ったクリスマス!
……ということで……。
「ま、結局このメンバーだよね」
「あはは……」
憐夜くんの言葉に苦笑する。
ハロウィンも何もかもこのメンバーだもんね。
ということで、いつものメンバーでクリスマス会!
会場はジャン負けで士綺くんのお家ということになった。
まあ、一応私は居候の身なんだけど……。
「チッ、今日こそは椿月と二人で過ごす予定だったのに……」
今日は24日で、正確なクリスマスじゃない。
明日25日のクリスマスは、士綺くんと二人で過ごす予定。
でも士綺くんは今日も二人で過ごしたかったよう。
「まあまあ、士綺クンは明日もつーちゃんの可愛い衣装見れるしいいじゃん。本当なら明日にクリパしたかったけどね」
「明日を譲るわけねぇだろ。椿月に頼まれたってごめんだ」
「嘘だ〜。士綺クン、つーちゃんに弱々だから頼まれたらイチコロでしょ」
またもや二人の言い争いが発展し、私はそろーっと目を離した。
そしていつものように私と涼くんと玲音くんで眺めている状態。
「……こいつら、本当に大学生か?」
「一応ですね。精神年齢は相当低いです」
玲音くんと涼くんはため息をついて、遠巻きに二人を見ている。
「ほら二人とも、はよ準備せーや」
「あっ、結蘭ちゃん」
結蘭ちゃんは隣の部屋で先にクリスマスツリーの準備中。
大声を聞いてこちらに来たのだろう。
「まったくもう、いつまで経っても子供やん。この子のほうがよっぽど可愛ええわ」
そう言って同じ部屋から出てきたのは小さな男の子。
どうやら結蘭ちゃんの弟らしく、玲音くんの従弟に当たる。
ギュッと結蘭ちゃんのスカートを掴む姿に目がくらみそう。
「ふふっ、ほんとに可愛いなぁ。私もこんな可愛い弟が欲しかったな〜。そういえば何歳だっけ?」
「この前7歳になったんやでー。やっぱ歳が離れてる分、可愛ええと思うんやな〜」
「7歳ってことは小学一年生? ふふっ、とっても可愛い」
ほっぺたを赤くして、小さなサンタクロースの衣装を着ている姿はまるで天使。
「ねぇね、お菓子食べたい……」
ねぇね、と結蘭ちゃんを呼ぶ姿も可愛い……!
しかも関西の生まれだからか、少し関西弁のところもまた可愛い……。
「お菓子? お姉ちゃんグミ持ってるよ! 食べる?」
「グミ……!」
グミをカバンから出すと、てってっと走って私に抱きついてきた。
「グーミっ、グーミ……!」
「くっ、可愛い……!」
あまりの可愛さに悶えていると、結蘭ちゃんが苦い顔をしていることに気づいた。
「椿月に子供が生まれたらこんな感じなんやろか。なんや複雑やな」
「俺も同意見だ」
玲音くんもまさかの同意に、私は少しショックを受けた。
『こんな感じ』ってどんな感じ? 私そんなにおかしい態度してた?
「お姉ちゃん、優しい人……大好き……」
「くぅっ……!」
「おー、死んだやん」
グミをモグモグと食べながら抱きついてくる姿は、本当に本物の天使。
可愛い……とにかく可愛い。
「おい、椿月に抱きつくな」
「ひ、ひっ……!」
すると後ろで禍々しいオーラを感じて振り向くと、そこには威嚇する士綺くんが。
大人でも泣き出すレベルの士綺くんのオーラに、涙目になっていた。
「ちょっと! 楓(かえで)くんが怯えてるでしょ! 次威嚇したら士綺くんのこと嫌いになるからね!」
「なっ」
「あっはは! 言われてる言われてる! ざまあないね〜」
「……」
憐夜くんが士綺くんを煽っていたら突然、楓くんが泣きそうな顔をして指をさした。
その指先には、憐夜くんと士綺くんの姿。
どうしたのかと疑問に思ったとき、小さな楓くんの唇が開いた。
「このお兄さんたち……悪い人……」
「えっ」
まあでも、士綺くんに威嚇されたもんね……悪い人と勘違いされても仕方ない。
「赤い、髪の人も怖い……」
「えっ、僕!? なんで!?」
憐夜くんは傷ついたように楓くんに詰め寄る。
すると、楓くんは後ろに下がった。
後ろに下がった先には涼くんが。
「士綺さんたちがくだらない喧嘩繰り返すからじゃないですか? 子供って意外と勘がいいらしいですよ」
涼くんがしゃがみ込んで楓くんの顔を覗き込むと、楓くんはまた泣きそうな顔に。
無害な涼くんも怖いの? そう問い掛けそうになったとき、楓くんがか細い声で言った。
「この人も、怖い人……!」
「「……えっ?」」
私と涼くんの間抜けな声が響いて数秒の沈黙後、当たりは大笑いに包まれた。
「あっはははは! ほんとに子供って勘いーね、涼くん」
「いや、俺何もしてないんですけど……」
「腹の底見破られたんだろ」
三人がぎゃあぎゃあと騒いでいる間、楓くんは方向を変えて玲音くんに抱きついた。
「れおんお兄ちゃんが一番好き……」
「……」
足に抱きついた楓くんのことを無言で抱き上げる玲音くんの姿は、まさにお父さんのよう。
子供ってそんなに勘がいいんだ……や、やっぱり玲音くんは優しいから?
「一応、楓と玲音は一回大阪で会ったことあるで。でも楓は5歳の頃やから覚えてへんやろうな」
「ふふっ、玲音くんが好かれる理由、なんとなくわかるなー。無口でクールでも、雰囲気が優しいんだもん」
「それうちもちょっとわかるわー。獅子堂は当然のことのように怖いし、天王寺もあの笑顔から怖さが滲み出てんねん。涼も腹の黒さがニセモノの笑顔から浮き出てるわ」
「女性陣辛口評価すぎないー? 泣いちゃうよ僕ー」
結蘭ちゃんの辛口評価に、憐夜くんは口を尖らせていた。
その間に玲音くんは楓くんの可愛さにやられたのか、肩車をして遊んでいた。
「れおんにぃにだーいすき」
「……」
玲音くんは相変わらずの無口だけど、その表情は見たことないくらい緩んでいた。
「この明るい雰囲気、なんや詩織(しおり)に似てんなぁ」
「───っ」
でも、結蘭ちゃんが玲音くんにそう言った途端、玲音くんの表情が曇った。
『え、どうしたの?』と言いかけたけど、悲しそうな玲音くんの表情に、辺りはシン……となった。
「え、あ、いや……ごめん、その、悪気はないねん……!」
その結蘭ちゃんの慌てっぷりに、何かあったのかと誰でもわかる状況だった。
「……ちょっと、外の空気吸ってくる」
「あっ、玲音くん……!」
玲音くんは言い放ち、楓くんを下ろして外に出て行ってしまった。
「玲音……」
やってしまった、という表情をする結蘭ちゃんはどこか悲しそうで。
憐夜くんと涼くんは、どこか傷ついた表情をしていて。
士綺くんは、呆れたような表情を結蘭ちゃんに向けていて……。
何がなんだかわからない私は、たった一人、取り残されていくだけ。
「え、っと……玲音くん、どうしちゃったんだろうね……」
場の空気を変えたくてそう言ったけど、結蘭ちゃんは唇を噛み締めていて……。
「……なんであんなこと、言ってしまったんやろ。うち、ほんまアホや……」
「結蘭ちゃん……」
私は何があったのか知らない。
でも……。
『……ちょっと、外の空気吸ってくる』
あんな傷ついた顔を見たら、嫌でも何かあったんだってわかる。
きっとみんな、知ってるんだ。
「私、玲音くん連れ戻してくる!」
「椿月!?」
私は士綺くんの言葉をスルーして、部屋から出た。
走って玲音くんの姿を探すけど、中々見つからない。
詩織さんって、誰だろう。……わからない。
でも、わからないからって、あんな傷ついた玲音くんを独りにしたくないよ。
必死に走っていると、廊下を曲がったところに玲音くんが立っていた。
「あっ、玲音くん!」
「……百瀬?」
驚いた顔をした玲音くんは、どこか悲しそうな表情をしていた。
見つかったことに安心すると同時に、その表情に胸が痛む。
「玲音くん、大丈夫かなって……。ごめん、余計なお世話だよね。でもほら、今からパーティーもするから気分も晴れるかなって」
「……ありがとな」
玲音くんは気を使ってくれたのか、来た道を戻った。
でも、その背中はやっぱり悲しそうで。
私はつい、玲音くんの手を掴んでしまった。
「っ、百瀬?」
「あ、ごめん……!」
私は玲音くんの手を離した。
でも、この悲しい表情のまま帰らせたくない。
せっかくなら、嫌なこと忘れてクリスマスパーティーを楽しんで欲しい。
私はそんな気持ちを必死に言語化した。
「あのさっ、たくさんお菓子もあるし、玲音くんの好きなパフェとか作るよ! だからっ」
「?」
急に好物の話をし始めた私を怪訝そうな目で見てくる玲音くんに、私は突如として恥ずかしくなった。
何言ってるんだろ! こういうこと言いたかったわけじゃないのに……!
「その……辛いときは、私でもいいから話して欲しいなっ。力になれないかもだけど、話すだけならほら……あっ、そう、私はただの壁だと思って!」
恥ずかしさの勢いに任せて口を走らせると、玲音くんはブフッと吹き出した。
「ははっ、あははっ……」
「へ……」
笑っ、てる?
よかった……なんでかはわからないけど、とりあえずは元気を取り戻してくれたみたい!
「ほんと、士綺が惚れる理由がわかるわ」
「え?」
「なんでもない。こっちの話」
玲音くんは明るい笑みを浮かべたまま、私の前を歩いた。
「れ、玲音……!」
部屋に戻ると、結蘭ちゃんが少し安心したような、でも少し複雑そうな顔をして玲音くんに駆け寄った。
「その……玲音のこと、気にせんと発言してほんまごめん……。別に玲音を責めたいわけちゃうねん! それだけは……」
「わかってる」
結蘭ちゃんの慌てた言葉を、玲音くんは小さい子を諭すように優しく遮った。
「結蘭は何も悪くない。……あんなことが起こったのは、全部俺のせいだ」
その言葉は、自分を責め立てるような言い方にしか聞こえない。
私は玲音くんの過去、全然わからないよ。
でもきっと、玲音くんも……みんな、辛い思いしてきたんだなってわかる。
それを教えてくれないのは少し悲しいけど、傷ついていることを掘り返したくはない。
「玲音くん、私、いつでも壁役するからね」
「は……」
私は玲音くんの服の裾を掴んでそう言った。
それと当時に、急に士綺くんが憤慨した。
「おい玲音、一体何があったんだ」
「……士綺が怒ること」
「あ?」
玲音くんが小さく呟くと、その言葉に反応した士綺くんがまた怒り出した。
そんな姿を見ていると、結蘭ちゃんが二人の背中を叩いた。
「ほら、さっさとパーティーすんで! アイスもケーキも食べ放題や!」
「やったー!」
全員がジュースの入ったコップを持って、腕を高く掲げた。
「「かんぱーい!!」」
「「乾杯」」
涼くんと玲音くんの少し落ち着いた声に、もう少しテンション上げてもいいのになぁ……と思う。
私はそんなことよりも……としゃがみ込んで楓くんと同じ目線になる。
私はそっとコップを差し出した。
「楓くん、お兄さんたちよりも大きい声でね。せーのっ、かんぱーい!!」
「か、かんぱい!」
玲音くんと涼くんよりは圧倒的な大きな声を発揮した楓くん。
カチンッとグラスを合わせて、ニコッと笑う姿はまさに天使だった。
「可愛いなぁ……私の弟にしたいくらい」
そう呟いたとき、チュッとリップ音と共に私の頬に温かい唇の感触が。
バッと隣に目を向けると、楓くんがニコニコと笑っていた。
「ぼく、つばきお姉ちゃんとけっこんする!」
「へ……ぇぇえぇ!?」
可愛い瞳を向けられて、私は硬直した。
「楓、椿月姉ちゃんと結婚したいんか〜。まあ10くらい歳離れとっても今の時代大丈夫やろ」
「え、いやいやいや!」
私には士綺くんがいるし……って、当の本人である士綺くんのお顔が……!
とてもとても綺麗なお顔は怒りのせいで眉間に皺が寄ってるし、相手が小さな子じゃなかったら今にも襲いかかりそう。
「てかつーちゃんも満更じゃないでしょー! こーんな可愛い男の子に迫られたらねー」
「そんなことないよー!」
ついムキになっていると、楓くんが涙目になっていることに気づいた。
「つばきお姉ちゃん、ぼくのこと、嫌い……?」
「き、嫌いなわけないよ! うーんでも……そうだなぁ……」
私は意を決して口を開いた。
「もし楓くんが大人になったときに忘れてなかったらかな。それに、お姉ちゃん別の人と結婚しちゃうかも!」
「えー、しないでよ〜……」
「ふふっ、楓くんが大人になったとき、私がまだ独身なら結婚しようね」
そういうと、楓くんは花が咲くような微笑ましい笑顔を浮かべた。
「うんっ! ぼく、大人になってもお姉ちゃんのこと好きだから!」
「ありがとう」
可愛いなぁと思うのと同時に、私は士綺くんのいる扉側に目を向けられなかった。
士綺くん、さすがに子供相手に手は出さないと思うけど、さっき本気で威嚇してたし……少し不安。
と、思ったけど、何もなくパーティーは始まった。
「はーい、プレゼント交換〜!」
みんな全員そそくさとプレゼントを出すと、憐夜くんが声を上げた。
「せーのでくじ引いて、同じ色の棒だった一人と交換ねー! はいどーん!」
憐夜くんが出したお菓子の缶には棒が。
7人だからどうしよう……と思っていると、楓くんはいつの間にか夢の世界へ。
あとでたくさんのお菓子を渡してあげようと決めて、全員で棒を持つ。
「じゃあいくよ? せーのっ!!」
バッとくじを引いた結果、私は紫色の棒だった。
誰がペアだろう……と見渡すと、私の相手は涼くんだった。
「涼くんが相手だ! ふふっ、涼くんとプレゼント交換なんて初めて〜」
「どうも……」
涼くんはチラチラと士綺くんを見て反応を気にしていた。
みんなのペアはというと、結蘭ちゃんと憐夜くん、玲音くんと士綺くんというペアに。
「天王寺と交換? なんか変なもの出しそう」
「なんてことを〜!」
二人が賑やかにしている後ろで、士綺くんがジロリと涼くんを睨んでいた。
「俺、今日命日だったりします?」
「あはは……そんなことにはならないから安心して〜……」
「信用ないんですが」
一応大丈夫……だと思う。
私はチラチラと士綺くんの様子を伺いながら、涼くんにプレゼントを渡した。
涼くんのプレゼントも受け取って、お互いその場で開く。
「うわぁ……綺麗な時計……!」
「そうですか? 無難だと思いますけど」
涼くんのプレゼントは綺麗な夜空がバックの時計だった。
すごいオシャレ……! 男女関係なく使えそうだし、さすが涼くん。
「なんだか値段が合ってないように感じるけど……私からは、自作のピアス。その……気に入らなかったら全然捨ててもいいから!」
「いえ……まあ士綺さんの前では付けられそうにないですけど、ちゃんと付けますよ」
優しいな涼くん……! と感激する手前、とても申し訳なかった。
結構ちゃんとした部品で作ったけど、さすがにこんな豪華な時計ほどの高い代物ではない。
やっぱりちゃんとした物買えばよかったな……。
そんな私の様子から感じ取ったのか、涼くんは少しそっぽ向いて口をおもむろに開いた。
「まあ……結構いいデザインだと思います。……ありがとうございます」
「ほんと!? 嬉しいっ、ありがとう!」
「なんで百瀬先輩がお礼言ってるんですか」
こうしてプレゼント交換は終わった……けど、私はずっと士綺くんと二人になる機会を伺っていた。
「天王寺〜、プレゼントハンカチって無難過ぎやない? 涼見習えや! うちもオシャレなん欲しかったわ!」
「結蘭ちゃんの赤いマフラーだって無難でしょ! 士綺クンとかだったら絶対つけないよ!」
「獅子堂のこと思って選んでへん!」
ジュースやお菓子を食べながら横目でチラリと士綺くんを見る。
すると、士綺くんはふらっと部屋から出て行った。
そのあとを追うと、士綺くんは玄関外に出ていた。
「あのー、士綺くん?」
「椿月? 寒いから中入ってろ。風邪引くぞ」
「そんなの士綺くんも一緒でしょ」
私は士綺くんの隣に座って冷たい手に触れた。
「ほら、士綺くんの手、冷たいよ。風邪引いちゃう」
「……俺、嫉妬中なのわかってんだろ。頭冷やすために外出たんだ」
「えっ」
“嫉妬中”。その言葉がまさかそんなにするりと出てくるなんて……と思ってキュンとしてしまった。
可愛い……最近、士綺くんが嫉妬したときの反応が可愛くて……。
「あの、これ……士綺くんへのクリスマスプレゼント」
「……くれるのか?」
「もちろんだよ! 涼くんにあげたのは交換用のやつ。こ、恋人用のくらい用意してるよっ」
自分から恋人と言って恥ずかしい〜。なんて思っていたら、いつの間にか士綺くんの腕の中にいた。
「えっ、士綺くん?」
「……あんなガキに嫉妬とか、俺も情けねえ」
「え……楓くんのこと?」
そう聞くと、鼻をムギュっと掴まれた。
「ちょっ……」
「わかってるのに聞くとかズルい」
「っ……」
いつもより幼く見える士綺くんに胸が高鳴る。
「そっ、それでね! プレゼントは私が編んだマフラーで! その、気に入らなかったらごめんね!」
恥ずかしさに早口になってしまう。
その私の挙動不審な様子を見て、士綺くんは笑っていた。
「あと……私は、士綺くんが好きだから」
「どうした、急に」
「さっきの楓くんのは、その……ほら、子供相手だしね!」
そう言うと、士綺くんは呆れたようにため息をついた。
「椿月、意外と子供って幼い頃の約束は覚えてるもんだぞ。もし楓が大人になったとき覚えてたらどうすんだ」
「えっ、ほんとに覚えてるの……!?」
だとしたら、私最低……!?
ワタワタとしているところを見て、士綺くんはまるで愛おしいものを見るような視線を向けてきた。
「椿月、俺からもプレゼントある」
「えっ、くれるの……!?」
「当たり前だろ」
士綺くんがそう言って取り出したのは、小さな箱だった。
「えっ、指輪!?」
「……ペアリングな」
危ない……期待、してしまった。
でも、そうだよね。
士綺くんが、クリスマスのムードとかに流されてプロポーズするわけない……。
士綺くんは周りを気にしないから……。
少し悲しい気持ちになって下を向いていると、ポンッと士綺くんの大きな手が頭に乗せられた。
「……左のほうは、取ってるだけ。ぜってぇ左手にも指輪、付けてやる」
「えっ……」
それって……。
バッと士綺くんを見ると、士綺くんは少し赤い顔をしていた。
「士綺くん、大好きっ!」
「っ」
ギュッと腕に抱きつくと、士綺くんが息を呑む音が聞こえた。
「椿月」
優しくそう呼ばれて頭を上げた。
士綺くんの長い指が私の唇に触れて、下にズレて……。
綺麗な形の唇が目の前まで迫ってきて、私はそっと目を閉じた。
「愛してる」
お互いの温かい唇がそっと、ゆっくりと重なった。
「メリークリスマス!」
今日は待ちに待ったクリスマス!
……ということで……。
「ま、結局このメンバーだよね」
「あはは……」
憐夜くんの言葉に苦笑する。
ハロウィンも何もかもこのメンバーだもんね。
ということで、いつものメンバーでクリスマス会!
会場はジャン負けで士綺くんのお家ということになった。
まあ、一応私は居候の身なんだけど……。
「チッ、今日こそは椿月と二人で過ごす予定だったのに……」
今日は24日で、正確なクリスマスじゃない。
明日25日のクリスマスは、士綺くんと二人で過ごす予定。
でも士綺くんは今日も二人で過ごしたかったよう。
「まあまあ、士綺クンは明日もつーちゃんの可愛い衣装見れるしいいじゃん。本当なら明日にクリパしたかったけどね」
「明日を譲るわけねぇだろ。椿月に頼まれたってごめんだ」
「嘘だ〜。士綺クン、つーちゃんに弱々だから頼まれたらイチコロでしょ」
またもや二人の言い争いが発展し、私はそろーっと目を離した。
そしていつものように私と涼くんと玲音くんで眺めている状態。
「……こいつら、本当に大学生か?」
「一応ですね。精神年齢は相当低いです」
玲音くんと涼くんはため息をついて、遠巻きに二人を見ている。
「ほら二人とも、はよ準備せーや」
「あっ、結蘭ちゃん」
結蘭ちゃんは隣の部屋で先にクリスマスツリーの準備中。
大声を聞いてこちらに来たのだろう。
「まったくもう、いつまで経っても子供やん。この子のほうがよっぽど可愛ええわ」
そう言って同じ部屋から出てきたのは小さな男の子。
どうやら結蘭ちゃんの弟らしく、玲音くんの従弟に当たる。
ギュッと結蘭ちゃんのスカートを掴む姿に目がくらみそう。
「ふふっ、ほんとに可愛いなぁ。私もこんな可愛い弟が欲しかったな〜。そういえば何歳だっけ?」
「この前7歳になったんやでー。やっぱ歳が離れてる分、可愛ええと思うんやな〜」
「7歳ってことは小学一年生? ふふっ、とっても可愛い」
ほっぺたを赤くして、小さなサンタクロースの衣装を着ている姿はまるで天使。
「ねぇね、お菓子食べたい……」
ねぇね、と結蘭ちゃんを呼ぶ姿も可愛い……!
しかも関西の生まれだからか、少し関西弁のところもまた可愛い……。
「お菓子? お姉ちゃんグミ持ってるよ! 食べる?」
「グミ……!」
グミをカバンから出すと、てってっと走って私に抱きついてきた。
「グーミっ、グーミ……!」
「くっ、可愛い……!」
あまりの可愛さに悶えていると、結蘭ちゃんが苦い顔をしていることに気づいた。
「椿月に子供が生まれたらこんな感じなんやろか。なんや複雑やな」
「俺も同意見だ」
玲音くんもまさかの同意に、私は少しショックを受けた。
『こんな感じ』ってどんな感じ? 私そんなにおかしい態度してた?
「お姉ちゃん、優しい人……大好き……」
「くぅっ……!」
「おー、死んだやん」
グミをモグモグと食べながら抱きついてくる姿は、本当に本物の天使。
可愛い……とにかく可愛い。
「おい、椿月に抱きつくな」
「ひ、ひっ……!」
すると後ろで禍々しいオーラを感じて振り向くと、そこには威嚇する士綺くんが。
大人でも泣き出すレベルの士綺くんのオーラに、涙目になっていた。
「ちょっと! 楓(かえで)くんが怯えてるでしょ! 次威嚇したら士綺くんのこと嫌いになるからね!」
「なっ」
「あっはは! 言われてる言われてる! ざまあないね〜」
「……」
憐夜くんが士綺くんを煽っていたら突然、楓くんが泣きそうな顔をして指をさした。
その指先には、憐夜くんと士綺くんの姿。
どうしたのかと疑問に思ったとき、小さな楓くんの唇が開いた。
「このお兄さんたち……悪い人……」
「えっ」
まあでも、士綺くんに威嚇されたもんね……悪い人と勘違いされても仕方ない。
「赤い、髪の人も怖い……」
「えっ、僕!? なんで!?」
憐夜くんは傷ついたように楓くんに詰め寄る。
すると、楓くんは後ろに下がった。
後ろに下がった先には涼くんが。
「士綺さんたちがくだらない喧嘩繰り返すからじゃないですか? 子供って意外と勘がいいらしいですよ」
涼くんがしゃがみ込んで楓くんの顔を覗き込むと、楓くんはまた泣きそうな顔に。
無害な涼くんも怖いの? そう問い掛けそうになったとき、楓くんがか細い声で言った。
「この人も、怖い人……!」
「「……えっ?」」
私と涼くんの間抜けな声が響いて数秒の沈黙後、当たりは大笑いに包まれた。
「あっはははは! ほんとに子供って勘いーね、涼くん」
「いや、俺何もしてないんですけど……」
「腹の底見破られたんだろ」
三人がぎゃあぎゃあと騒いでいる間、楓くんは方向を変えて玲音くんに抱きついた。
「れおんお兄ちゃんが一番好き……」
「……」
足に抱きついた楓くんのことを無言で抱き上げる玲音くんの姿は、まさにお父さんのよう。
子供ってそんなに勘がいいんだ……や、やっぱり玲音くんは優しいから?
「一応、楓と玲音は一回大阪で会ったことあるで。でも楓は5歳の頃やから覚えてへんやろうな」
「ふふっ、玲音くんが好かれる理由、なんとなくわかるなー。無口でクールでも、雰囲気が優しいんだもん」
「それうちもちょっとわかるわー。獅子堂は当然のことのように怖いし、天王寺もあの笑顔から怖さが滲み出てんねん。涼も腹の黒さがニセモノの笑顔から浮き出てるわ」
「女性陣辛口評価すぎないー? 泣いちゃうよ僕ー」
結蘭ちゃんの辛口評価に、憐夜くんは口を尖らせていた。
その間に玲音くんは楓くんの可愛さにやられたのか、肩車をして遊んでいた。
「れおんにぃにだーいすき」
「……」
玲音くんは相変わらずの無口だけど、その表情は見たことないくらい緩んでいた。
「この明るい雰囲気、なんや詩織(しおり)に似てんなぁ」
「───っ」
でも、結蘭ちゃんが玲音くんにそう言った途端、玲音くんの表情が曇った。
『え、どうしたの?』と言いかけたけど、悲しそうな玲音くんの表情に、辺りはシン……となった。
「え、あ、いや……ごめん、その、悪気はないねん……!」
その結蘭ちゃんの慌てっぷりに、何かあったのかと誰でもわかる状況だった。
「……ちょっと、外の空気吸ってくる」
「あっ、玲音くん……!」
玲音くんは言い放ち、楓くんを下ろして外に出て行ってしまった。
「玲音……」
やってしまった、という表情をする結蘭ちゃんはどこか悲しそうで。
憐夜くんと涼くんは、どこか傷ついた表情をしていて。
士綺くんは、呆れたような表情を結蘭ちゃんに向けていて……。
何がなんだかわからない私は、たった一人、取り残されていくだけ。
「え、っと……玲音くん、どうしちゃったんだろうね……」
場の空気を変えたくてそう言ったけど、結蘭ちゃんは唇を噛み締めていて……。
「……なんであんなこと、言ってしまったんやろ。うち、ほんまアホや……」
「結蘭ちゃん……」
私は何があったのか知らない。
でも……。
『……ちょっと、外の空気吸ってくる』
あんな傷ついた顔を見たら、嫌でも何かあったんだってわかる。
きっとみんな、知ってるんだ。
「私、玲音くん連れ戻してくる!」
「椿月!?」
私は士綺くんの言葉をスルーして、部屋から出た。
走って玲音くんの姿を探すけど、中々見つからない。
詩織さんって、誰だろう。……わからない。
でも、わからないからって、あんな傷ついた玲音くんを独りにしたくないよ。
必死に走っていると、廊下を曲がったところに玲音くんが立っていた。
「あっ、玲音くん!」
「……百瀬?」
驚いた顔をした玲音くんは、どこか悲しそうな表情をしていた。
見つかったことに安心すると同時に、その表情に胸が痛む。
「玲音くん、大丈夫かなって……。ごめん、余計なお世話だよね。でもほら、今からパーティーもするから気分も晴れるかなって」
「……ありがとな」
玲音くんは気を使ってくれたのか、来た道を戻った。
でも、その背中はやっぱり悲しそうで。
私はつい、玲音くんの手を掴んでしまった。
「っ、百瀬?」
「あ、ごめん……!」
私は玲音くんの手を離した。
でも、この悲しい表情のまま帰らせたくない。
せっかくなら、嫌なこと忘れてクリスマスパーティーを楽しんで欲しい。
私はそんな気持ちを必死に言語化した。
「あのさっ、たくさんお菓子もあるし、玲音くんの好きなパフェとか作るよ! だからっ」
「?」
急に好物の話をし始めた私を怪訝そうな目で見てくる玲音くんに、私は突如として恥ずかしくなった。
何言ってるんだろ! こういうこと言いたかったわけじゃないのに……!
「その……辛いときは、私でもいいから話して欲しいなっ。力になれないかもだけど、話すだけならほら……あっ、そう、私はただの壁だと思って!」
恥ずかしさの勢いに任せて口を走らせると、玲音くんはブフッと吹き出した。
「ははっ、あははっ……」
「へ……」
笑っ、てる?
よかった……なんでかはわからないけど、とりあえずは元気を取り戻してくれたみたい!
「ほんと、士綺が惚れる理由がわかるわ」
「え?」
「なんでもない。こっちの話」
玲音くんは明るい笑みを浮かべたまま、私の前を歩いた。
「れ、玲音……!」
部屋に戻ると、結蘭ちゃんが少し安心したような、でも少し複雑そうな顔をして玲音くんに駆け寄った。
「その……玲音のこと、気にせんと発言してほんまごめん……。別に玲音を責めたいわけちゃうねん! それだけは……」
「わかってる」
結蘭ちゃんの慌てた言葉を、玲音くんは小さい子を諭すように優しく遮った。
「結蘭は何も悪くない。……あんなことが起こったのは、全部俺のせいだ」
その言葉は、自分を責め立てるような言い方にしか聞こえない。
私は玲音くんの過去、全然わからないよ。
でもきっと、玲音くんも……みんな、辛い思いしてきたんだなってわかる。
それを教えてくれないのは少し悲しいけど、傷ついていることを掘り返したくはない。
「玲音くん、私、いつでも壁役するからね」
「は……」
私は玲音くんの服の裾を掴んでそう言った。
それと当時に、急に士綺くんが憤慨した。
「おい玲音、一体何があったんだ」
「……士綺が怒ること」
「あ?」
玲音くんが小さく呟くと、その言葉に反応した士綺くんがまた怒り出した。
そんな姿を見ていると、結蘭ちゃんが二人の背中を叩いた。
「ほら、さっさとパーティーすんで! アイスもケーキも食べ放題や!」
「やったー!」
全員がジュースの入ったコップを持って、腕を高く掲げた。
「「かんぱーい!!」」
「「乾杯」」
涼くんと玲音くんの少し落ち着いた声に、もう少しテンション上げてもいいのになぁ……と思う。
私はそんなことよりも……としゃがみ込んで楓くんと同じ目線になる。
私はそっとコップを差し出した。
「楓くん、お兄さんたちよりも大きい声でね。せーのっ、かんぱーい!!」
「か、かんぱい!」
玲音くんと涼くんよりは圧倒的な大きな声を発揮した楓くん。
カチンッとグラスを合わせて、ニコッと笑う姿はまさに天使だった。
「可愛いなぁ……私の弟にしたいくらい」
そう呟いたとき、チュッとリップ音と共に私の頬に温かい唇の感触が。
バッと隣に目を向けると、楓くんがニコニコと笑っていた。
「ぼく、つばきお姉ちゃんとけっこんする!」
「へ……ぇぇえぇ!?」
可愛い瞳を向けられて、私は硬直した。
「楓、椿月姉ちゃんと結婚したいんか〜。まあ10くらい歳離れとっても今の時代大丈夫やろ」
「え、いやいやいや!」
私には士綺くんがいるし……って、当の本人である士綺くんのお顔が……!
とてもとても綺麗なお顔は怒りのせいで眉間に皺が寄ってるし、相手が小さな子じゃなかったら今にも襲いかかりそう。
「てかつーちゃんも満更じゃないでしょー! こーんな可愛い男の子に迫られたらねー」
「そんなことないよー!」
ついムキになっていると、楓くんが涙目になっていることに気づいた。
「つばきお姉ちゃん、ぼくのこと、嫌い……?」
「き、嫌いなわけないよ! うーんでも……そうだなぁ……」
私は意を決して口を開いた。
「もし楓くんが大人になったときに忘れてなかったらかな。それに、お姉ちゃん別の人と結婚しちゃうかも!」
「えー、しないでよ〜……」
「ふふっ、楓くんが大人になったとき、私がまだ独身なら結婚しようね」
そういうと、楓くんは花が咲くような微笑ましい笑顔を浮かべた。
「うんっ! ぼく、大人になってもお姉ちゃんのこと好きだから!」
「ありがとう」
可愛いなぁと思うのと同時に、私は士綺くんのいる扉側に目を向けられなかった。
士綺くん、さすがに子供相手に手は出さないと思うけど、さっき本気で威嚇してたし……少し不安。
と、思ったけど、何もなくパーティーは始まった。
「はーい、プレゼント交換〜!」
みんな全員そそくさとプレゼントを出すと、憐夜くんが声を上げた。
「せーのでくじ引いて、同じ色の棒だった一人と交換ねー! はいどーん!」
憐夜くんが出したお菓子の缶には棒が。
7人だからどうしよう……と思っていると、楓くんはいつの間にか夢の世界へ。
あとでたくさんのお菓子を渡してあげようと決めて、全員で棒を持つ。
「じゃあいくよ? せーのっ!!」
バッとくじを引いた結果、私は紫色の棒だった。
誰がペアだろう……と見渡すと、私の相手は涼くんだった。
「涼くんが相手だ! ふふっ、涼くんとプレゼント交換なんて初めて〜」
「どうも……」
涼くんはチラチラと士綺くんを見て反応を気にしていた。
みんなのペアはというと、結蘭ちゃんと憐夜くん、玲音くんと士綺くんというペアに。
「天王寺と交換? なんか変なもの出しそう」
「なんてことを〜!」
二人が賑やかにしている後ろで、士綺くんがジロリと涼くんを睨んでいた。
「俺、今日命日だったりします?」
「あはは……そんなことにはならないから安心して〜……」
「信用ないんですが」
一応大丈夫……だと思う。
私はチラチラと士綺くんの様子を伺いながら、涼くんにプレゼントを渡した。
涼くんのプレゼントも受け取って、お互いその場で開く。
「うわぁ……綺麗な時計……!」
「そうですか? 無難だと思いますけど」
涼くんのプレゼントは綺麗な夜空がバックの時計だった。
すごいオシャレ……! 男女関係なく使えそうだし、さすが涼くん。
「なんだか値段が合ってないように感じるけど……私からは、自作のピアス。その……気に入らなかったら全然捨ててもいいから!」
「いえ……まあ士綺さんの前では付けられそうにないですけど、ちゃんと付けますよ」
優しいな涼くん……! と感激する手前、とても申し訳なかった。
結構ちゃんとした部品で作ったけど、さすがにこんな豪華な時計ほどの高い代物ではない。
やっぱりちゃんとした物買えばよかったな……。
そんな私の様子から感じ取ったのか、涼くんは少しそっぽ向いて口をおもむろに開いた。
「まあ……結構いいデザインだと思います。……ありがとうございます」
「ほんと!? 嬉しいっ、ありがとう!」
「なんで百瀬先輩がお礼言ってるんですか」
こうしてプレゼント交換は終わった……けど、私はずっと士綺くんと二人になる機会を伺っていた。
「天王寺〜、プレゼントハンカチって無難過ぎやない? 涼見習えや! うちもオシャレなん欲しかったわ!」
「結蘭ちゃんの赤いマフラーだって無難でしょ! 士綺クンとかだったら絶対つけないよ!」
「獅子堂のこと思って選んでへん!」
ジュースやお菓子を食べながら横目でチラリと士綺くんを見る。
すると、士綺くんはふらっと部屋から出て行った。
そのあとを追うと、士綺くんは玄関外に出ていた。
「あのー、士綺くん?」
「椿月? 寒いから中入ってろ。風邪引くぞ」
「そんなの士綺くんも一緒でしょ」
私は士綺くんの隣に座って冷たい手に触れた。
「ほら、士綺くんの手、冷たいよ。風邪引いちゃう」
「……俺、嫉妬中なのわかってんだろ。頭冷やすために外出たんだ」
「えっ」
“嫉妬中”。その言葉がまさかそんなにするりと出てくるなんて……と思ってキュンとしてしまった。
可愛い……最近、士綺くんが嫉妬したときの反応が可愛くて……。
「あの、これ……士綺くんへのクリスマスプレゼント」
「……くれるのか?」
「もちろんだよ! 涼くんにあげたのは交換用のやつ。こ、恋人用のくらい用意してるよっ」
自分から恋人と言って恥ずかしい〜。なんて思っていたら、いつの間にか士綺くんの腕の中にいた。
「えっ、士綺くん?」
「……あんなガキに嫉妬とか、俺も情けねえ」
「え……楓くんのこと?」
そう聞くと、鼻をムギュっと掴まれた。
「ちょっ……」
「わかってるのに聞くとかズルい」
「っ……」
いつもより幼く見える士綺くんに胸が高鳴る。
「そっ、それでね! プレゼントは私が編んだマフラーで! その、気に入らなかったらごめんね!」
恥ずかしさに早口になってしまう。
その私の挙動不審な様子を見て、士綺くんは笑っていた。
「あと……私は、士綺くんが好きだから」
「どうした、急に」
「さっきの楓くんのは、その……ほら、子供相手だしね!」
そう言うと、士綺くんは呆れたようにため息をついた。
「椿月、意外と子供って幼い頃の約束は覚えてるもんだぞ。もし楓が大人になったとき覚えてたらどうすんだ」
「えっ、ほんとに覚えてるの……!?」
だとしたら、私最低……!?
ワタワタとしているところを見て、士綺くんはまるで愛おしいものを見るような視線を向けてきた。
「椿月、俺からもプレゼントある」
「えっ、くれるの……!?」
「当たり前だろ」
士綺くんがそう言って取り出したのは、小さな箱だった。
「えっ、指輪!?」
「……ペアリングな」
危ない……期待、してしまった。
でも、そうだよね。
士綺くんが、クリスマスのムードとかに流されてプロポーズするわけない……。
士綺くんは周りを気にしないから……。
少し悲しい気持ちになって下を向いていると、ポンッと士綺くんの大きな手が頭に乗せられた。
「……左のほうは、取ってるだけ。ぜってぇ左手にも指輪、付けてやる」
「えっ……」
それって……。
バッと士綺くんを見ると、士綺くんは少し赤い顔をしていた。
「士綺くん、大好きっ!」
「っ」
ギュッと腕に抱きつくと、士綺くんが息を呑む音が聞こえた。
「椿月」
優しくそう呼ばれて頭を上げた。
士綺くんの長い指が私の唇に触れて、下にズレて……。
綺麗な形の唇が目の前まで迫ってきて、私はそっと目を閉じた。
「愛してる」
お互いの温かい唇がそっと、ゆっくりと重なった。



