「……なぁ。向井って、透のことやんな?」
「む~か~い~!!」
「いぎゃぁああ! 鬼ぃいいい!!」
視界に鬼が見えて、あたしはみんなを置いて猛ダッシュ。
急いで上靴を脱いで下駄箱に押し込むと、「逃げんてんじゃねぇぞぉおおおお!!!」と校舎に響く怒声。
ズドドドド!って聞こえちゃいそうなくらい必死ですね! でも残念! 逃げるが勝ち!
「――ッ!」
ローファーを履いて逃げようとした途端、肩を掴まれた。
ゼーハーという荒い息に恐る恐る振り向くと、鬼の形相した数学の担当教師、その名もつんちゃんが降臨。
若くてイケメンだけど、超怖い。鬼。閻魔様。
「補習はどぉしたぁ~」
「いやぁー! 鬼がいるー! やだやだ帰るぅぅぅぅう!!」
「やだじゃねーだろ!」
「今日だけは無理なのー!」
昴先輩とカフェに行くんだから!
「お前な! この前の期末、何点だった!? じゅう! はってん! 18ってナメてんのかこのバカ!」
「ぎゃー! 大声で点数言わないでよ! つんちゃんのハゲ!」
「デコ広いって言ってんのかテメー! このっ!」
昴先輩が笑ってんじゃんよ! つんちゃんのハゲ! つるりん!
ギャーギャー喚くあたしたちに、冷静な声がかけられる。



