「そうじゃないの?」
「まさか、昴が女といるの見たの初めてじゃねーだろ?」
「初めてなわけないじゃん」
遠巻きに見てただけの頃、昴先輩の周りにはよく女の子がいた。
「仲良くなったから、欲が出たんだろ」
「欲?」
「今まで、好き好きばっかで。いざ仲良くなると、好きになって欲しいと思っちゃうんだよ」
「………」
そうか。そうかも。
あたし、見てるだけで幸せだった。
周りに女の子がいても、モテる昴先輩も素敵で、かっこいいって思ってた。
でも友達になって、あたしだけに向けられる笑顔とか、メールとか言葉とか。身に染みて、前より好きだと毎日毎日思った。
心のどこかで、あたしだけに笑ってほしい。あたしを好きになってほしい。
そう、思ってた気がする。
「そのモヤモヤを糧に、頑張れば」
隼人はいつの間にか蕎麦を食べ終わり、席を立っていた。
「……さすが、チャラいだけあるね」
「おめーは何で俺には毒舌なんだよ!」
そう言いながらも、隼人は笑う。
「じゃーな」
「うん、ありがとう」
隼人は何も言わずに背中を向けて、手を軽く振ると食堂を出て行った。



