昴がモテることなんて最初から知ってた。きっとゆっこ先輩みたいに想い続ける人も他にいて、諦める人だけじゃないってことも分かってる。
あたしはヤキモチだって妬くし、気持ちに余裕が持てるほど恋愛に慣れてないし、いつも目先のことにいっぱい一杯で、失敗だって繰り返す。
だから負けたくない。
昴を想う気持ちは、誰にも。
彼女であることに油断しないで、いつも昴を好きな、ひとりの女の子でいたい。
あたしにはそのくらいの自信しかないけど、あたしにとってはこれが、最強の自信。
「……でもやっぱり、ライバルが現れないに越したことはないです……」
「なぁに? めずらしく考え込んでると思ったらそんなこと?」
「だって……」
「トールッ!」
「はひぃ!」
奈々に向けるはずだった視線に突然飛び込んできた昴。驚いて仰け反ると、駆け寄ってきた昴は持っていたハンカチをあたしの頬にあてた。
「え? ど、どうしたの……」
「こおらせてっ」
「こ……?」
凍らせて?って……。あ。ハンカチ、冷たい……?
「……」
頬に押し当てられたハンカチから、ヒンヤリした冷気が徐々に伝わってくる。
「……食堂のおばちゃんにもらってきたの? 保冷剤」
ハンカチを押し当てて、時たま離して、平手打ちされた頬を心配そうに見つめる昴に問い掛けた。
「ウン。……イタイ? はれないよーに、こおらせないとっ」
真面目な顔をして言う昴に、思わず吹き出してしまう。
冷やさないとの間違いだよって思いながら、あたしは平手打ちされたことも忘れてたのに、昴があんまり必死に心配するものだから。
声を出して笑うあたしに昴は困惑していたけど、止まらなかった。
どうしよう。
めちゃくちゃ、嬉しい。



