「……もういい。……昴の彼女がこんなに可愛くなかったら、嫌な奴にならなくて済んだのに」
ゆっこ先輩は綺麗に巻いた長い髪をくしゃっと握りながら、あたしを見た。
「早く別れてね」
「――なっ! 別れません!」
ゆっこ先輩は少し笑って、「あんたが羨ましいよ」と言って他の2人と去っていった。
「トール! だいじょぶ!? ……ゴメンネ」
「えっ! ううん! 平気!」
「ヨカッタ」
あたしは昴に微笑んでから、ゆっこ先輩が立ち去った場所を見る。
「…………」
「は~! ほんっまアイツらは余計なことしかせぇへんなっ!」
「まぁまぁ。奈々も怪我なかったし、昴もちゃんとハッキリ言ったんだから、気にすることないよ。ほら、みんなで昼飯食べよう」
キョウが言いながら昴と翔太を連れて、食堂に入っていく。あたしと奈々はその後ろを少し離れて歩いた。
「ねぇ透」
「んー?」
「ゆっこ先輩が言ってたのは、昴の彼女が可愛いくなかったら、嫌がらせしなかったって意味よね」
「……? うん?」
「認めてるのよ。透が自分より可愛いってことも、透が昴の彼女に相応しいってことも」
「そうなの?」
「そうよ。可愛いくなかったらいつか別れるって思う人なんじゃない? でもお似合いだから、別れそうにないと思って悔しかったのね」
そう奈々が言っても、あたしを羨ましいと言ったゆっこ先輩の気持ちは分かる気がした。
あたしもゆっこ先輩のこと羨ましいって思った時があるし、今だって昴と同じクラスの人たちが羨ましい。
奈々の言ってることは分かるけど、あたしは昴とお似合いどころか完全に不釣り合いだと思ってるわけで。
いくら付き合っていて昴の彼女だって言っても、彼女って完璧じゃないというか……完全無欠な存在ではないと思うんだよなぁ……。
だから、負けたくないって思うんだ。



