――――――…
「奈ー々ちゃーん! おはようっ」
「ご機嫌ね」
「げっへっへ」
「気持ち悪い近付かないであっち行って」
「……」
文化祭の振替休日が終わって、今日からまた学校が始まる。
興奮冷めやらぬ生徒たちは、心無しかまだ浮き足立ってるように見えた。
「どうだったの? 初デートは」
上履きに履き替えながら、あたしはよくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに満面の笑みを見せる。
「待ち合わせしてー! 昴の私服超かっこよくて! 買い物してー映画見てープリ撮ってー! あっ、見る!?」
答えも聞かずに携帯の待ち受けを奈々に見せる。
「ふぅん……それで? 終わり?」
奈々は視線を携帯画面からあたしに移すと、グロスが艶めく唇の端を上げた。
「まさか、何もなかったわけじゃないでしょう?」
「ま……まさかって、なぁに!?」
携帯を閉じて胸の前でギュッと握りしめると、奈々はあたしの顔をジッと見てきた。
「ふぅん……透がねぇ……」
上から下まで舐めまわすような視線を感じながら、奈々の腕をつかむ。
「キスしかしてないよ!?」
はっ! 言っちゃった!
慌てて口を手で塞ぐと、奈々は「ふぅん」と言いながらあたしの耳元で囁いた。
「だから今日もリップ塗ってるのね」
「ぎゃーっ! 奈々のバカッ!」
「下品だわ」
「ひどい! 何でさ!」
「ああヤダヤダ」と言って、奈々は真っ赤になるあたしを置いて先に歩いていってしまう。
バレた! 何か、なんか……あたしと昴がキスしたことが他の人にバレるって恥ずかしい!
キスしたの、見られたみたい……。
「……」
のうっ!
あたしは恥ずかしくなって、俯きがちに教室に向かった。
まさか奈々以外の人にも話を聞かれていたなんて、思わずに……。



