「――っはあぁぁぁぁあ!? えぇええええ!?」
「いい反応だけど、うるさいわ」
「どちら様!?」
あたしじゃない! どちら様!?
ブルブルと震える手に持たれた鏡に映るのは、たれ目がちにアイラインが引かれたパッチリした二重に、長い睫毛の女の子。
ふんわりとしたオレンジ色のチーク。ふっくらして、ツヤツヤ輝くベージュピンクの唇。ぱっつん前髪で、ランダムに巻かれたチョコブラウンの長い髪。
「べ、べべ……別人……」
化粧すげー……。ていうか普段のあたしとは180度違くした奈々の腕が信じられない……。
「奈々ってすごいね!」
「知ってるわ」
「いや~すごいよ……大聖が一瞬気付かなかったわけだよ……」
鏡をもう一度覗けば、やっぱり別人だけどちゃんと女の子に見える。
これで、あたしも少しは女の子だって思ってもらえるかなぁ……。
「気づいてないだろうけど、透は元々可愛いのよ」
奈々は鏡を取り上げ、あたしの背中を押してプライベートルームを出た。
「男はみんな、透に夢中ね」
くすっと妖艶に笑う奈々に苦笑い。
男は奈々に夢中ですよ……。
「昴も驚くわ」
「昴……?」
「えぇ、もうお昼だもの。そろそろ来るんじゃないかしら」
「楽しみだわ」と付け足して、奈々は接客に戻っていった。
昴……。昴も、可愛いって言ってくれるかなぁ。
言ってくれたら嬉しいなぁ……。
「おい透! ボサッとしてねぇで仕事しろ仕事!」
「はぃぃぃい!」
店長の喝で我に返り、あたしは急いで接客を始めた。



