――メイクをしてもらってる間、経験のない感触に魔法をかけられてる気分だった。
「ほんとに大丈夫!?」
「なぁに? 私のメイクにケチつける気かしら」
「だって何か顔が重い!」
まばたきする度まつげが見える。唇がベタベタする。肌が呼吸出来てない。
メイクが終わると、魔法と感じていたものは落書きされたとしか思えなくなっていた。
「肌が綺麗すぎてムカつくわね」
奈々はあたしのほっぺをつねる。
「ひひゃい……」
「遊んでる暇なかったわ。はいこれ被って」
「!?」
バサッと頭に乗せられたものへ咄嗟に手を伸ばした。
「……かつら!?」
「ウィッグよ。失礼ね」
「一緒じゃん……」
「ほら、急いで」
かつ……ウィッグをしっかりとかぶせられ、ホックみたいなものを後頭部で止めた奈々はあたしをジッと見つめてから立ち上がる。
「ちょっ……奈々! あたし変じゃない!? 大丈夫!?」
「自分で確かめてみなさいよ。教室で待ってるわ」
奈々はそう微笑んで、早々と屋上を去っていった。
ひゅる~と切ない風が吹く。
お……置いてかれた……。
ウィッグはチョコブラウンのロング。胸下まである髪は、内巻き外巻きランダムに巻かれている。
あたし、人生で髪長かったことないんだけど……似合ってんの……?