「いないね、センセー」
昴先輩は振り向くことなくあたしを保健室まで連れてくると、キョロキョロと辺りを見回して、誰もいないことに困っている様子。
す、昴先輩……もう、手は離してもいいのでは……ないでしょうか……?
手が火傷しそうです。ついでに顔も。
「て、あて……するネ」
昴先輩は保健医の先生が座る椅子に腰掛け、その瞬間あたしの手を離した。
あ……。
離してほしいと思ってたのに、いざ離れると寂しくなった。犬がしゅんとして耳を垂らすような、そんな気分。
わがままだなぁ、あたし……。
椅子に座ったまま黙っていると、昴先輩はガチャガチャと机の上をあさっている。
「これかなー」
……昴先輩、それ“うがい薬”って書いてあります。
「こっちかな」
……“湯”って書いてあるので、それは保健医飲みかけのお茶です。
「これ!」
そうです! それですっ!!
王子はやっぱり漢字が苦手なんだなぁ……。可愛い……。
やっと見つけた消毒液と書かれたビンに、昴先輩はピンセットでつまんだ脱脂綿を入れる。



