ミレイナとセドリックは、同じ馬車で帰路についた。
ミレイナの部屋にベスタニカ・ローズがあったことで、セドリックとの婚約があっさりと広まったのは言うまでもない。
あのパーティーの夜、ビルはみんなにたっぷりと怒られたらしい。そして、何よりもサシャとの婚約も白紙になったのだという。
きっと、彼は王都に帰ってから、叔父たちに更に怒られることだろう。
「ねえ、セドリック。どうして、あの夜エデンの丘にいたの?」
「ん? ああ、これに書いてあったから」
セドリックは内ポケットから見覚えのある手紙を取り出した。――ミレイナがセドリックに宛てた手紙だ。
「どうしてそれを持っているの? 王都に持って行ってもらったはずよ?」
「途中ですれ違ったから。エモンスキー家の紋章が付いてたからすぐにわかった」
フリック家と王都を結ぶ道は何本かあるが、最短距離を選ぶと同じ道になってしまう。セドリックとエモンスキー家の馬車がすれ違うのは必然だ。
「先生の言うとおりの場所でプロポーズをしたんだから褒めてよ」
「も、もう先生じゃないわ」
「そうだった。もう、ミレイナは先生でも友達でも姉でもなく、僕の綺麗で可愛い婚約者だった」
セドリックが嬉しそうに頬を緩める。彼の幸せそうな笑みを見ていると、ミレイナの胸もいっぱいになる。
彼はミレイナの顔を覗き込んだ。
「ねえ……。キスしていい?」
「そっ! そんな突然っ……!?」
頬が熱い。
恥ずかしさで気絶してしまいそうだ。
(そ、そんな風に育てた覚えはないわ!)
こんなに艶のある彼をミレイナは知らない。
いつも彼はツンケンして、ミレイナに冷たく当たるのが常だった。もちろん、そのほとんどが本気ではないことは、原作の知識から知っている。
「……ダメ?」
「だめ……では、ないわ……」
不安そうな表情で見られて、だめとは言えなかった。
彼は満足そうに笑みを浮かべると、ミレイナに顔を寄せる。
「ほら、目を瞑ってよ」
鼻がぶつかりそうな距離で言われて、ミレイナは固く目を閉じた。彼の鼻息が掛かる。
ミレイナとセドリックは揺れる馬車の中で、長い長い口づけを交わした。
FIN



