「僕はミレイナしか見ない。だから、ミレイナも僕だけを見て。この薔薇を受け取って、僕の伴侶になるって言ってよ」
彼のアメジストの瞳がまっすぐミレイナを捕らえたまま離さない。
(怖がっているばかりじゃだめ。覚悟を決めなきゃ)
いつだって、何かを決めるときは不安や恐怖がついてくるものだ。
ミレイナはぎゅっと彼の手を握り返した。
「わたくし、セドリックが好きよ。誰よりも好き」
「うん」
「だからとても怖いの。これから社交場に出るようになって、たくさんの人と出会うようになったときに、セドリックが後悔しないか」
原作とは違う道を歩んで、彼は幸せになれるのか。とても不安だ。そして、もっと怖いことがある。
「もし、セドリックが新しい恋をしたら、本当に閉じ込めてしまうかもしれないわ」
悪者になったとしても。どんな手を使っても、ミレイナはセドリックを離せないかもしれない。
「それでもいいの?」
「もちろん。そもそも前提条件が間違っている。僕の目にはもうミレイナしか映ってない。ほら、見てよ」
紫色の目にはミレイナしか映っていない。「……屁理屈なんだから」と、ミレイナは頬を膨らませた。
「もう一度言う。僕の人生はこの先ミレイナに捧げるから、僕の隣で笑って。泣いて。怒ってよ」
再び薔薇の花束を差し出され、ミレイナはまじまじと見つめた。
紫の瞳が不安そうに揺れる。不安なのは、セドリックも同じなのだろうか。
そう思うと、ミレイナの気持ちも少しだけ軽くなる。
(原作に逆らうことになったとしても、セドリックの側にいたいの)
ミレイナはゆっくりと花束を受け取った。
「その……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
ミレイナが控え目に言うと、セドリックの頬が緩む。そして、腹を抱えて笑った。



