いるはずのない人が、こんなところにいるのだから驚くことしかできなかった。
思わず頬をつねる。
これは全部夢かもしれない。旅行で疲れてしまったのだ。
まだミレイナはベッドの中で幸せな夢を見ている。そのほうが納得がいく。
夢でも都合がよすぎるとは思う。
セドリックが薔薇の花束を持ってエデンの丘にいるだなんて。頭の中のあちらこちらに散らばっている願望を、寄せ集めたとしか考えられない。
「夢じゃない」
セドリックが頬をつねっていたミレイナの手を、やんわりと押さえる。ミレイナは呆然と見上げた。
「どうして?」
「さっきからミレイナはそればっかりだ」
「だって、ここは王都ではないわ」
フリック家の領地は王都から馬車で七日。王族の力を使っても、それは変わらない。
「そんなの、決まってる」
セドリックは不機嫌そうに眉根を寄せた。そして、ミレイナの耳元に唇を寄せる。
「ミレイナが逃げるから」
その言葉に、ミレイナは再び目を丸める。
「そ、そんなことで……?」
「そんなことって。ミレイナが逃げるから予定が全部崩れたんだ」
「予定って?」
セドリックはミレイナの胸にずいっと薔薇の花束を押しつける。
ベスタニカ・ローズの強い香りに包まれた。
「ミレイナが帰って来るのを待ってたら、全部枯れるところだったから」
「こんな大切な物をどうして……?」
「どうしてって……。そんなのプロポーズのために決まってる」
セドリックは膝をついて、ミレイナを見上げた。



