ミレイナはまじまじとその花片を見つめた。
(そんなはずないわ。だって、あの薔薇はここにはないもの)
ミレイナはこれとよく似た薔薇を知っている。
ベスタニカ・ローズ。
それは王家の薔薇と呼ばれ、王宮の庭園でしか育てられていない薔薇だ。苗を持ち出すことは許されず、それが露見すれば処刑されてしまう。
ミレイナの胸がざわめく。
思わず、駆けだした。
また一枚、風に揺れる花片を拾い上げ、坂を駆け上がった。
エデンの丘には大きなガゼボが建っている。
屋根の掛かっていない骨組みだけのガゼボは、見上げた時に美しい星を楽しめるようにという思からだそうだ。
花畑の真ん中に佇むガゼボに人影を見つけて、ミレイナの胸が跳ねた。
「……セドリック?」
絶対にあり得ない人の名前を呼んでしまい、慌てて両手で自身の口を押さえる。拾った薔薇の花片が風にのって旅立った。
強い薔薇の香り。
やはり、この香りはよく知っている。
人の影がゆっくりと動いて、振り返った。
「ミレイナ?」
聞き覚えのある声に、ミレイナの心臓が騒ぎ出す。声変わりを終えた、大人の男の声だ。
ミレイナは慌てて駆けた。
「セドリック、どうして?」
走りすぎたせいか、驚き過ぎたせいか、うまく声が出ない。



