◆◆◆

 翌朝、扉がノックされる音で目覚めた。ガウンを羽織って、扉に近付く。

「カリスタ、きみの服を持ってきた」
「……! 殿下が自ら……?」

 扉越しに声が聞こえる。そっと扉を開き、隙間から服を受け取って「すぐに着替えます」と口にして扉を閉めた。

 平民の服なら、ひとりでも着替えられるだろう。そう思ってベッドの近くで着替える。

 ……『平民っぽい服』に偽りなく、肌触りはとても良いものだ。

 ロングスカートに長袖のシャツ。それからショールを身につけ、帽子をかぶる。

 靴も用意されていたから、それを履く。ぴったりだ。

 帽子と靴まで用意されていたとは……。姿見に映る姿を確認して、扉を開ける。

「……うん、ドレス姿ではないきみを見るのは、新鮮だね」
「……殿下の格好も新鮮ですわ」
「行こう。今なら抜け出せる」

 すっと手を差し出されて、その手を取った。……こんなにラフな格好のエリオット殿下を見るのは初めてだ。

 それでも、殿下から溢れ出す気品は隠しようがない。

 こんなに気品が溢れた平民がいるのかしら、と心の中でつぶやく。

 ――でも、こんなに明るい彼の表情、見たことがないわ。

 まだ早朝ということもあり、あまり人の気配がないような気がする。

 殿下は「ここ、抜け道なんだ」と抜け道を教えてくれた。

 外に出ると、そのまま市場に足を進める。

 王城から市場に向かうのにも近道があるようで、そこも教えてくれた。

 そして小一時間もかからず、市場について……

「わぁ……!」

 と、思わず声を上げてしまった。