朝、夜、劣情。

 舞緒が朔夜を振り返ったのと、朔夜が座っていた椅子から立ち上がったのはほぼ同時だった。朔夜の目は冷たく、暗く、声にも抑揚がなかったが、その気になっていることは確実だった。纏うオーラが、圧倒的なDomのそれだ。背中がゾクゾクとし、全身を巡る血が滾り、勝手に息が乱れていく。まだ何も言われていないのに、舞緒は朔夜の足元に跪きたくなっていた。

 背後で朝葉が微かに笑う声が、舞緒の耳に届く。朝葉は自らが演出したであろうこの状況を酷く愉しんでいる様子だった。決して手は出さない。決して手は貸さない。舞緒の身に何が起こっても、加わることも助けることもしないだろう。静かに微笑いはするが、完全に傍観者に徹するつもりのようだ。舞緒は扇動されるだけだった。

 舞緒以外の目があろうとも、それが双子の弟であろうとも、全く意に介すことなく行動を起こし始める朔夜は、部屋の隅に設置してあるクローゼットを開けた。中には制服だったり私服だったりがハンガーにかけられ綺麗に収納してあったが、朔夜の目的は衣服の類ではなかった。その下の奥にある、まるで隠すようにして収められている茶色の紙袋だ。朔夜はそれを手に取り、静かにクローゼットを閉めた。そして、朔夜に期待し、朔夜に注目する舞緒の前で、手にしたばかりの紙袋を上下逆さまにひっくり返し、中身を床にぶちまけた。朔夜の突飛な行動に驚愕しつつも、落とされたそれらのものが何なのかを把握して、途端に溢れ出す高揚感に舞緒は唾を飲んだ。

「樫野の好きに使っていい。"Attract(興味を惹かせろ)"」

 待ち望んだ朔夜のコマンドが、舞緒の脳内に大きく轟く。思考を遮られ、操られた。空になった紙袋を手放した朔夜が、椅子に座り直して舞緒に目を向けるも、すぐに逸らされた。今は舞緒に興味がない状態だと言えた。朔夜の興味を惹かなければ、この続きはない。朔夜とプレイができない。舞緒は熱い息を吐き、朔夜によってばら撒かれた数々の道具の側まで歩み寄り膝を折った。