「洗脳なんてひどいですぅ! アイリーンさまぁ!」
「語尾を伸ばす話し方、やめていただけませんか? そもそも――あなた、本当にエミリアさまですか?」

 小説の中のエミリアは、もう少し普通の話し方をしていた。
わたくしの問いかけに、彼女は顔を覆い隠して、くすんくすんと泣き出す。それを庇うようにグレアム殿下がエミリアを抱きしめる。

 ……呆れてものも言えない。

「――いつまでこんな茶番を続けるつもりだ、グレアム」

 ――そんな声が、聞こえた。

 パーティー会場がざわめく。

 まさかここで登場するとは思わなかった。わたくしの推し、グレアム殿下の兄!

「茶番とはなんのことでしょうか、ルイス兄上」
「パーティーで婚約破棄を宣言しようとし、見せつけるかのように婚約者以外を抱きしめることだ。大体、お前とアイリーン嬢の婚約は、生まれる前から決められていたこと。それを破棄するには、きちんとした手順を踏むのが、『人として』当たり前のことだろう」

 さすがわたくしの推し! 淡々とした口調でグレアム殿下へ言葉をかけている。鋭い視線に負けたのか、グレアム殿下はさっと視線をそらした。

「本当に、アイリーン嬢には申し訳ないことをした。愚弟(ぐてい)に代わり謝罪する」

 わたくしに向けて頭を下げる推し――ルイス殿下。彼は側室の子ということもあり、あまり良い扱いを受けていない――と、小説の中の設定ではなっている。

 でもね、正直グレアム殿下よりもルイス殿下のほうが人気だった。そりゃあ、あの人たちよりも冷静に物事を判断できる人のほうが、人気になるわよね。