「――グレアム殿下。パーティー会場で婚約破棄を宣言するのでしたら、わたくし、徹底的に相手になりましてよ?」
「て、徹底的?」

 ピクンと眉を跳ね上げるグレアム殿下に、優雅にうなずいてみせる。

「ええ。こんなにデリケートな問題をわざわざ人前で……なんて、わたくしの今後を少しでも想像したら、できませんわよね?」
「生意気だぞ、アイリーン!」
「で、殿下はアイリーンさまのことも考えていますよぉ。そう、だって、アイリーンさまの新しい婚約者を……」
「……勝手にわたくしの婚約者を見繕った、と?」

 パーティー会場がざわめいた。それはそうだろう。わざわざグレアム殿下とエミリアがわたくしの婚約者を見繕(みつくろ)う意味なんて……ねぇ?

「それはもしかして、マルコムさまのことでしょうか?」
「な、なぜそれを……!」

 わかりやすく、はぁああ、と大きなため息を吐いた。そして、パチンと指を鳴らす。

 すると、パッと小型の録音機を持った護衛が現れた。録音機の再生をすると――……

『アイリーンさまには、マルコムさまがぴったりですよぉ。ほら、マルコムさまなら、アイリーンさまの引き立て役になりますしぃ……。エミリアは絶対イヤですけどぉ……』
『はは、確かに天使のように愛らしいエミリアには似合わないな。悪魔のようなアイリーンならともかく』
『うふふ。マルコムさまはぁ、ずぅっとアイリーンさまのことを狙っていたって聞いてますよぉ! ああいうお堅い令嬢を、()としたいんですってぇ!』
『ならば、マルコムからたくさんの謝礼がもらえるかもしれないな。その金が手に入ったら、エミリアの髪飾りを買ってあげよう』
『きゃー! エミリアは幸せ者ですぅ!』