「アイリーン、貴様との婚約を――」
「破棄するのですね。かしこまりました、喜んで同意いたします」

 パーティーでわたくしの婚約者である第一王子、グレアム殿下から婚約破棄を伝えられることは想定済み。

 彼の隣には、ヒロインであるエミリアが付き添っていた。

 以前から愛読していた恋愛小説に転生した私は、このときをずーっと待っていたのよ。

 恋愛小説の悪役令嬢として生まれ変わったわたくし――アイリーンは、この第一王子が嫌いだった。ヒロインであるエミリアのことも。

 真実の愛? ただの略奪愛じゃない。それで盛り上がるのはふたりだけ。周りからどんな目で見られているのか、わからないのかしらね?

 もちろん、わたくしは小説とは違う行動をしていたから、エミリアに近付きもしていない。

 小説の中のアイリーンだって、エミリアをいじめていたわけではないのよね。注意はしていたけれど。それなのに、グレアム殿下は彼女を追い詰め、王都から追い出した。

 原作は悪役令嬢のアイリーンを追い出してハッピーエンド! って感じで終わったけれど、悪役令嬢というには……原作のアイリーンは弱い気がした。

 だって本当に注意しただけなのだもの……。それなのに追い出したから、正直悪印象しかないのよね、グレアム殿下に。