「ほら、鈴音なら俺の両親だって実の娘のように思ってるって言ってるんだよ。な、忍の様子が落ち着くまでは俺の家に暮らせばいい。そして代わりに俺が忍と一緒に暮らすからさ」

亮平はナイスアイディアと言わんばかりに満足した様子だったけど、私が亮平の家に住んで、亮平が私の家に住む?こんなの絶対におかしいと思う。だけど…。

「おじさんとおばさんの返事次第だから…」

もうこんな年の瀬も押し迫っているのに新しい次のアパートが見つかるとも思えないし…かといって隆司さんとはもうこれ以上一緒に暮らすわけには…。

「ああ、とりあえず忍の様子を見に行く前にまずは俺の家に行こう。な?」

笑顔で亮平に笑いかけられる。そうだった…最近はこんな風に私に笑いかけてくれることは無かったけど、私は亮平の笑顔が子供の頃から大好きだった。大人になっても変わらず、私にこの笑顔を向けてくれるだろうとあの頃はそれを信じて疑っていなかったのに、いつしか亮平はお姉ちゃんの事ばかり目で追うようになっていた。そして私はいつも、その笑顔を私に向けてくれればと願っていたんだ。皮肉なことに今、私にあれほど欲しかった笑顔を見せてくれているけど、でも亮平の心はお姉ちゃんの物…。
何だかそれを思うと目にジワジワと熱いものがこみ上げてくる。

「お、おい?鈴音…お前、何涙ぐんでるんだよ?」

亮平が困った顔で私を見た。

「う、ううん。ちょっと窓の外の明かりが目に染みたのかな…?」

すると亮平が笑った。

「ハハハ…照れるなって。久しぶりに忍さんに会えて嬉しくて涙ぐんでるんだろう?」

亮平は見当違いな事を言ってくる。でも…いつだってそう。亮平の一番優先する人はお姉ちゃんなんだから。私はきっと永久に亮平にとっての一番になる事はこの先もきっとないんだろうな…。

「うん。だったら、そういう事でいいよ」

そして私はそっぽを向いて亮平の家に着くまでの間、タクシーの窓から外の景色を眺めていた。



***

「まぁ~…鈴音ちゃん。久しぶりね。すっかり綺麗になって…ささ、上がって頂戴」

亮平のお母さんが玄関まで迎えに出てくれた。

「こんばんは、おばさん」

ペコリと頭を下げると、おじさんも出てきた。

「鈴音ちゃん。こんばんは。遠慮せずに上がりなさい」

「はい、お邪魔します」

靴を脱いで玄関からあがると、おばさんがすぐにリビングに案内してくれた。

「鈴音ちゃん。何か夜御飯食べたの?」

「あ、いえ…まだです」

「まあ!21時になるのにっ?!」

そう言えば、色々あってまだ夜御飯食べていなかったんだっけ…。

「亮平、何故鈴音ちゃんに御馳走してやらなかったんだ?」

おじさんが亮平を責めた。

「いや、俺は鈴音と一緒にファミレスに行ったんだぞ?2人で飯を食べようとしていた処…」

う、まずい!このままでは…亮平は隆司さんのをおじさんやおばさんに話してしまうかもしれないっ!

「い、いえ!わ、私がお腹すいていないって言ったからだよね。そうだったよね?亮平っ!」

「あ、ああ。そうだったな」

「そうなの?鈴音ちゃん。でも今から何か食べる?準備するわよ?」

「い、いえ。大丈夫ですから」

今からお姉ちゃんに会うのに緊張してご飯なんか喉を通らないよ…。

「でも鈴音ちゃん。本当に大丈夫?こんなに痩せちゃって・・・心配だわ」

「あのさ、俺、ちょっと忍の様子見て来るから…鈴音の事頼むな?」

そして亮平はそのまま玄関から出て行ってしまった。そんな亮平を見ているおじさんとおばさんの表情が暗い。

「あの…?」

私が怪訝そうに尋ねると、おばさんが私を見た。

「こんな事、妹の鈴音ちゃんに言うべきことじゃないんだろうけど…」

「おい!やめないかっ!」

おじさんがおばさんを止めようとしたけど…。

「私達、昔から忍ちゃんの事は好きじゃなかったのよ。鈴音ちゃんの事は大好きだけど…」

え…?

おばさんは意外な事を口にした――