「それにしても亮平のお陰で助かったわ。本当に有難う、やっぱり迎えに来てくれたんだね。」

警察からの事情徴収の帰り道…亮平と2人で並んで歩きながら私は笑い掛けた。

「あ、ああ…まあ、そう…だな。」

しかし、何故か亮平の歯切れが悪い。一体どうしたんだろう?気付けば私達は自分の家の前にやって来ていた。

「あれ…?家の明かりがついてる…」

私が呟くと、突然玄関のドアが開けられてお姉ちゃんが飛び出して来た。

「鈴音ちゃんっ!」

「え?お、お姉ちゃんっ?!どうして…今夜はデートだったんじゃ…?」

「それがねえ、今夜突然残業が入ったらしくてデートは無しになっちゃったの。そしたら家に帰ってみればまだ鈴音ちゃんは帰っていないし…。それで亮平君にお願いしてお迎えに行って貰ったのよ」

え?それじゃ…もしかして亮平が私を迎えに来てくれたのはお姉ちゃんに頼まれたからだったの‥?チラリと私は亮平を見たが、もう彼の目はお姉ちゃんに釘付けだった。

「でも、良かった。何とも無かったようで…え?」

そこまで言いかけてお姉ちゃんはようやく私の服や体があちこち汚れている事に気が付いた。

「え?す、鈴音ちゃんっ!どうしたの?あちこち汚れているじゃないのっ!」

「う、うん…ちょっと‥ね…」

お姉ちゃんに心配かけたくなくて私はごまかそうとしたが・・・恐怖で身体中が小刻みに震えている。

「鈴音ちゃん…」

お姉ちゃんは私をギュッと抱きしめると亮平に言った。

「亮平君、一体…どういう事なの?これは?」

すると…。

「すみませんっ!忍さんっ!俺が出るのが遅かったばかりに‥!鈴音…襲われかけていて、俺が行った時には、棒を持って男と向かい会っていて…!」

私はお姉ちゃんの腕の中で思った。ああ…やはりこんな時でも亮平が謝る相手は私では無く、お姉ちゃんなんだと…。そう思うとどうしようもなくやるせない気持ちになってしまった。

「亮平君。謝るのは私では無いでしょう?鈴音ちゃんに謝って」

するとお姉ちゃんが私が考えていた事と、同じ事を言った。

「!」

亮平は一度息を飲み…そして私の方を見た。

「ごめん鈴音。迎えに行くのが遅れて…」

「いいよ、もう別にお姉ちゃんに言われなくても電話を入れた段階で迎えに来て欲しかった。そしたらあんな怖い思いをしなくても済んだのに…。それに、もしお姉ちゃんが帰っていなかったら?恐らく私はあのまま男に襲われていたかもしれない…。結局亮平にとって私は所詮それだけの存在価値だという事が改めて分かり、襲われかけたショックよりも亮平の心の内を知ってしまった事の方が余程私にとってはショックだった。そう思うと途端に悲しくなって目頭が熱くなってきた。

「お姉ちゃん…身体汚れちゃったから…私、お風呂入って来るね」

私は2人に顔を見られないように伏せ、玄関へと入ろうとしたときに亮平が口を開いた。

「忍さん、明日…もし何も用事が無いなら俺と一緒に映画に行きませんか?」

しかし、お姉ちゃんは言った。

「亮平君。明日は彼とドライブに行くのよ。私ばかり誘わないで、鈴音ちゃんを誘ったら?」

「え?」

私は驚いて振り向いたが、亮平は私の方を見て言った。

「何言ってるんですか、鈴音は明日仕事ですよ。そうだろう?」

「う、うん…」

でも明日は早番だから、夜の部なら…。そう言いたかったけどきっと亮平は断るに決まっている。

「私は仕事だから無理だよ。でも平日お休みだと映画館も空いてるからそれはそれでいい物だけどね?」

わたしはわざと明るく言うと、お風呂場へと向かった――