「りょ・・・亮平…。どうして突然電話なんか…それにこの番号……」

声を震わせて尋ねた。

『ごめん』

「え…?」

一体どういう事?

『騙すような真似してごめん。鈴音…俺の番号、メールも合わせて拒否しているだろう?だから会社で借りてるスマホでお前に今電話かけてる』

「そう。それで何の用なの?」

どうせ、お姉ちゃんの事に決まっているけど…あえて尋ねてみた。

『ああ…忍さんの事なんだけど…』

やっぱり。ズキリとまた私の胸は痛んだ。亮平はいつもそう。どんな時でもお姉ちゃんが最優先。私なんか所詮亮平にとっては眼中にない存在。

「亮平、お姉ちゃんから私の事どういうふうに聞いているか知らないけどお姉ちゃんにとって今の私は必要とされていないんだよ?いなくなってもらいたい存在なんだから。お姉ちゃんのことは亮平が何とかしてあげて。大切な恋人なんでしょう。お願いだからもう私に関わらないで。放っておいてよ。それじゃ、切るね…」

溜息をつくと電話越しから亮平の切羽詰まった声が聞こえてきた。

『待てっ!鈴音、頼む、お願いだっ!切らないでくれっ!忍さんの事で大切な話があるんだ。少しでもいいから話を聞いてくれっ!実はもう錦糸町に来てるんだよっ!お前の職場に行ったら今日は休みだって言われたし…』

「ええ?!私の職場に来たのっ?!」

最悪だ…信じられない…。

「それで…」

『え・・?』

「お姉ちゃんのことで話があるんでしょう?今どこにいるの?」

『ああ。錦糸町の駅ビルのカフェにいるんだ。場所は…』

「分かった、そこに行けばいいのね。多分10分位で行けると思うから待ってて」

亮平から場所を聞き出した。

『ああ、待ってる』

待ってる…。その言葉を聞いただけで、私の胸はトクンと鳴った。亮平にしてみれば対して深い意味はない言葉なのかもしれない。だけど私にとってはその言葉はとて重みがある言葉だった――


 10分後―

私は亮平が指定したカフェに到着した。亮平はどこだろう?キョロキョロ辺りを見渡すと、壁際の一番奥のソファ席に1人で座っている亮平を発見した。何やら手元のスマホを一所懸命いじっているので私が近づいても気づいていない。

「お待たせ」

声を掛けるとようやく気付いたのか、顔を上げた。

「…悪かったな。いきなり来てしまって」

「いいよ、別に…」

椅子を引いて席に座ると亮平は尋ねてきた。

「あれ?お前…飲み物注文してこなかったのか?」

「え?う、うん。私は別にいいよ」

だって、さっきまでカフェにいてコーヒー飲んできてるからね。

「いいから、何か注文してこいよ。俺がおごるからさ」

そう言って亮平は500円玉をテーブルの上に置いた。何だ…1000円じゃないんだ。

「…ありがと」

テーブルの上からお金を取ると亮平が眉をしかめた。

「おい?何だ?今の間は?気になるだろう?」

「ううん。別に」

ガタンと立ち上がると、カウンターへ行き…税込み500円ちょうどのキャラメルマキアートを注文した。

「お待たせ」

カップを持って席に戻ると亮平はまたスマホをいじっていたのか、顔を上げた。

「それ…何だ?」

「これ?キャラメルマキアートだよ」

「ふ~ん。うまそうだな…。で、おつりは?」

「え?」

私は耳を疑った。

「お釣りは?貰ってるんだろう?」

「え?貰ってないよ?だって500円ちょうどだもの」

カップを手に取り、フウフウと冷ましながら一口ごくりと飲む。うん。おいしい。

一方、亮平は目をぱちくりさせると言った。

「何、それ。500円もするの?」

「500円もって…そんなに高いかな?」

「い、いや…だけど…うん…まあいいか」

亮平は腕組みをして、ウンウンと呟き…勝手に1人で納得した。それにしても…。

「亮平、何だかちょっと見ない間にやつれたんじゃないの?何かあった?」

「そういうお前は少し太ったんじゃないのか?顔が丸くなったぞ?」

「な…あ、あのねえ…私は亮平の事を心配して…」

その時亮平のスマホがなった。

「あ…忍さんからだ」

亮平は着信相手を見ると言った。お姉ちゃんから…。ズキンと再私の胸が痛くなる。

「もしもし」

亮平は私の目の前でお姉ちゃんの電話に出た――