早いもので私と隆司さんの同居生活は5か月目になった。この5か月間…本当にあっという間に時間が過ぎて行った気がする。
隆司さんは最初に同居する時の言葉通りに月の半分以上は出張でマンションを開けていた。確かにこれほどしょっちゅう家を空けていれば、誰かに住んでもらって管理して貰いたいと思う気持ちも納得できる。

 今日は2人とも、土曜日で本当に久しぶりに休みがそろったので、年末年始の買い物に駅前の繁華街に来ていた。

街中では今はクリスマスカラーで染まっている。


「わあ、見てください、隆司さん。あのクリスマスツリー、すごく大きいですね」

そこはカフェだった。大きなガラス窓のカフェは店内の様子がよく見えた。部屋の中央には不釣り合いなほど巨大なツリーが置かれている。

「ああ、本当だ…大きいな」

思わず足を止めてツリーを見ていると隆司さんが尋ねてきた。

「鈴音。うちもクリスマスツリーを買って飾るか?」

「え…?」

大真面目に私を見つめてツリーの話をする隆司さんに思わず私は笑ってしまった。

「いやだ~、隆司さん。そんな事するのは子供がいる家庭だけですよ」

「そ、そうか?」

隆司さんは顔を赤らめて私を見。

「鈴音。今年のクリスマスなんだけど…何か用事でもあるのか?」

「え?用事ですか?いえ。別に無いですけど」

その時、私の脳裏に去年のクリスマスの事が思い出されていた。去年のクリスマスはお姉ちゃんが私にクリスマスプレゼントで腕時計をプレゼントしてくれたんだっけ…。

「どうした?鈴音。ぼんやりして…」

隆司さんが怪訝そうに声を掛けてきた、その時――

「隆司?」

前方で女性が呼びかけてきた。

「麻由里…っ!」

隆司さんが青ざめた顔で女性を見た……。



 私たちは今、先ほどの巨大ツリーが飾られているカフェに3人で来ている。

3人で丸テーブルに座っているのだけど…うう…気まずい…。私は麻由里と呼ばれた女性をチラリと見た。ふわりとウェーブのかかった茶髪のとてもきれいな女性だった。耳には星の形をしたピアスをつけている。淡いベージュ色のニットセーターにひざ丈のフレアースカートのロングブーツ…とても女性らしい人。そこへ行くと私は…。パーカーにジーンズ、スニーカーと、とうてい女性らしい恰好をしていない。何だか自分が酷く恥ずかしくなってきた。麻由里さんは私の事が気になるのか、先ほどからチラチラと視線を送ってくる。その目は何故、貴女みたいな女性が隆司さんと一緒にいるのと責められているようにも見える。

 気まずい沈黙の中、ようやく隆司さんは口を開いた。

「それで、麻由里。話があるって言うからカフェに入ったのに…何故何も言わないんだ?」

「ええ。そうね…ところで…」

何故か麻由里さんはチラリと私を見る。あ…もしかして、私がお邪魔なのかな…?

「あの、私買い物してきます。どうぞ後はお2人でごゆっくりして下さい」

まるで後は若い2人で…みたいなセリフを言いつつ立ち上がると隆司さんが引き止めてきた。

「買い物って一体どこへ行くんだ、鈴音」

「ええ、ちょっと本屋さんとか雑貨屋さんに行きたいので」

とっさに嘘をつく。

「それ…後では駄目なのか?」

何故か隆司さんが切なげな瞳で私を見る。うう…お願いだから多分元カノ?さんの前でそんな顔をしないで欲しい…。すると麻由里さんが口を開いた。

「いいじゃないの、買い物に行きたいって言ってるんだから束縛はいけないわよ」

「束縛…」

隆司さんは口を閉ざしてしまった。束縛…どうしよう、そんな関係じゃないのに。だけど私が口を挟めばもっとややこしくなりそうだったからここは黙っている事にした。

「それでは失礼しますね」

ぺこりと頭を下げると、麻由里さんも頭を下げる。そして私はそのままカフェを後にした。


「あの部屋のカーテンを選んだ女性なのかな…」

繁華街を歩きながら私がポツリと呟いた時、見知らぬ携帯番号から着信が入ってきた。

「え…?誰だろう?あ、ひょっとして宅配業者かな?この間注文した家電届いたのかな?」

実は私は1週間ほど前に1人暮らしを始める為の準備としてテレビを買っていた。

「はい、もしもし」

疑いもなく電話に出た。

「もしもし…鈴音か?俺だ、亮平だよ…」

「え…?」

受話器から聞こえてきた声は…懐かしい亮平の声だった――