食器を洗い終えて、再び隆司さんに与えられた部屋へ戻り、荷物整理を再開した。全て片付け終えた頃に隆司さんがノックをしてきた。ドアを開けるとTシャツにスウェットを履いた隆司さんが立っていた

「鈴音。シャワーあいたよ」

「ありがとうございます。」

「バスタオルとか、タオル自由に使っていいよ。場所を案内するからついて来て」

「はい」

隆司さんの後に続くとバスルームへとやって来た。

「ほら、ここにタオル類は入っているから」

大きな洗面台は鏡の扉になっていて、そこを開けると中は棚になっていた。

「一番上の棚がバスタオル、2番目がタオルになっているから自由に使っていいよ」

「ありがとうございます」

頭を下げると、隆司さんはフッと笑みを浮かべた。

「ごゆっくり」

そして隆司さんは、何故か玄関へと向かっていく。

「え?隆司さん。何所へ行くんですか?」

「ああ、このマンションの1Fはコンビニになっているだろう?ちょっとコンビニまでね」

「そうなんですか。行ってらっしゃい」

「行ってきます」

隆司さんは手を振ると玄関から出て行った。

「さて、シャワー浴びよう」

私は部屋に戻ると替えの下着とパジャマを持って再びバスルームへと向かった――


 隆司さんのマンションのお風呂場は最高だった。広々としてまるで豪華ホテルのようだった。それまで住んでいたマンスリーマンションとは大違いだ。本当にあのバスルームはとても狭くて、身体や髪を洗う時はあちこち身体をぶつけてしまう位だったしね。思わず鼻歌交じりでのんびりバスタイムを楽しんでバスルームから出てくると隆司さんがちょうど帰って来た。

「あ、隆司さん。バスルーム、使わせていただいて有難うございました」

「ああ、どうだった。使い心地は?」

「はい、もう最っ高でしたっ!」

「そうか、それは良かった」

「ところで隆司さん。どうしてコンビニへ行って来たんですか?」

私が尋ねると、何故か隆司さんは一瞬顔を赤らめて視線を逸らせた。

「?」

「い、いや・・・ちょっと雑誌を買いに・・・ね」

「でも・・その割には手ぶらで帰ってきましたよね?」

「あ、ああ。買いたい雑誌が無かったんだ」

「そうですか」

「・・・」

おかしい・・・。どうも隆司さんの歯切れがさっきから悪い気がする…。思わずじ~っと見ていると、隆司さんが私をチラリと見ると言った。

「す、鈴音・・・」

「はい」

「そ、その…パジャマ・・・可愛いな」

ボソッと隆司さんが言う。

「は、はあ・・・有難うございます」

お礼は言ったけど、私が着ているのは青い縦じまの半そでにズボンという恰好だ。ちっとも可愛くもなんともない…ユニセックスパジャマなのだけど・・・。しかし、相変わらず隆司さんは頬を薄っすら赤く染めて私を見つめている。
その時、突然スマホの着信音が部屋に鳴り響いた。でもこの音は…?

「あ、俺のスマホだ・・・。悪い、電話に出るから…」

「はい、それでは私は明日仕事なので休ませて頂きますね」

「ああ。お休み」

「お休みなさい」

そして私は足早に部屋へと戻った。時刻はもう夜の11時になっていた。部屋の電気を消して久しぶりに自分のベッドに潜り込むと、お姉ちゃんと暮らしていたあの家の事が思い出されてしまった。

「もう・・・私は二度とあの家には戻れないのかな・・・」

布団をかぶりながら思わずポツリと呟いてしまった。そして私は目をつぶるとすぐに眠りに落ちてしまった――