「ちょ! ちょっと! な、何で亮平がここにいるのよっ!」
恥ずかしい! 絶対亮平にからかわれるに決まってる。きっと、亮平の事だ。
<結婚する相手もいないのに、何でウェディングドレスなんか着てるんだよ?>
そんな風に言われるに決まってるんだから。
「あ、あ、あのね? こ、これは……!」
真赤になって慌てて言い訳しようとしているのに、何だか亮平の様子がおかしい。顔を赤らめてじっと私を見つめている。
「亮平……?」
「鈴音……」
すると何を思ったのか、亮平の手が伸びて来て私の頬に右手でそっと触れてきた。熱を持った亮平の手に、思わず羞恥で顔が真っ赤になってしまった。
「ちょ! ちょっとぉっ! な、な、何するのよっ!!」
慌てて亮平の身体をグイッと押しやると、そこでようやく我に返ったかのように亮平はハッとした表情に変わった。そしてますます顔を真っ赤にさせて、口元を抑えた。
「あ……お、俺は今一体何を……?」
「な、何をじゃないでしょっ! そ、それはこっちの台詞よ! い、いきなり試着室のカーテン開ければそこに立ってるし、おまけに人の顔に勝手に触るし……!」
さっきの亮平の私を見つめる目が忘れらず、照れくささを隠すために私はわざと強気な態度をとった。
「な、何だよっ! そ、そういう鈴音こそいきなりウェディングドレス姿で現れるなよ! 心臓麻痺起こすところだったぞ!? 全く心臓に悪いったら……」
「な、何よ。心臓麻痺って……」
酷い、あんまりな言い方だ。
「まぁまぁ、鈴音ちゃん。亮平君、落ち着いて」
するとお姉ちゃんが止めに入ってきた。
「な、何ですか……忍さん。鈴音のセレモニードレスを見て欲しいって言うから俺はてっきり……なのに、ウェディングドレスを着ているから驚きましたよ」
「あら? いいじゃない……すっごく素敵。良く似合ってるわ。そう思わない、亮平君?」
「……」
亮平はチラリと顔を赤くしながら私を見る。
「ま、まぁ……馬子にも衣装ってところかな?」
な、何よその言い方。お世辞でもいいから『似合ってる』位言えないの? こっちだって恥ずかしくて堪らないのに……そしたら笑ってごまかせるのに!
「わ、私着替える!」
試着室の中に再び入るとカーテンを閉めて再び自分の姿を鏡で見て……思わず口から言葉が飛び出てしまった。
「亮平の馬鹿……」
ますます惨めな気持ちになってしまった――
****
その後、今日は下見だけと言う事でお店で住所と名前、連絡先だけ伝えると私達はレンタル衣装店を出た。
「何だか喉が渇いたわね。ちょっとファミレスに寄って行かない?」
お姉ちゃんは彼がバイトしているファミレスを指さす。
「いいですね。それじゃ行きましょう」
亮平が素早く返事をした。
「え? ちょ、ちょっと待って。あのファミレスは……」
あのファミレスはまずい。だって直人さんの弟さんがバイトしているかもしれないから。正直に言えば、もう会いたくは無かった。だって彼を見ると直人さんを思い出してしまうから。
「何だよ? 入りたくない理由あるなら言えよ」
「べ、別に特に理由は……」
私は咄嗟にごまかすのが苦手だ。変に言い訳しても勘が鋭い亮平に見抜かれてしまうから。
「いいじゃない、鈴音ちゃん。あのファミレスならフリードリンクがあるから好きな物飲めるわよ?」
「う、うん……分った……」
よくよく考えてみれば、あれから3カ月近く時が経っている。彼はもうバイトしていないかもしれないし、シフトがたまたま合う……何て事も無いだろう。
そして結局私は2人に挟まれるようにファミレスへ連れて行かれてしまった。
店内はお昼前だったけれども土曜日だったと言う事もあって、賑わっていた。
「いらっしゃいませ」
店内へ入るとすぐにお店の人が現れた。
「「あ……」」
ああ、なんて事だろう……。
現れた彼は直人さんの弟だった――
「こちらのお席へどうぞ」
彼は私達を真ん中の列のボックス席に案内してくれた。
「何かお決まりになりましたらお呼び下さい」
すると亮平が言った。
「全員、フリードリンクで……え?」
その時、亮平が彼の着けている名札に目をやっていることに気付いた。ま、まさか……亮平に彼が直人さんの身内だと言う事がばれた?
「お客様?」
彼が首を傾げる。
「いえ、何でもありません。ではお願いします」
「ではごゆっくりどうぞ」
彼が頭を下げて去って行くと早速亮平が声をかけてきた。
「それじゃ、皆で飲み物を取に行こう」
「それで、鈴音はどんな結婚式プランがいいんだっけ?」
亮平がニコニコしながら尋ねる。
「だからどうして私が考えなくちゃいけないのよ。お姉ちゃんの好みの結婚式にすればいいじゃない」
チラリとお姉ちゃんを見ると、まるで他人事の様にスムージーを飲んでいる。
「いいじゃないか。忍さんはお前の思い描く結婚式を挙げるのが夢なんだから」
「だったら亮平が決めればいいでしょう?」
「あのなぁ……俺はお前の希望通りの結婚式を挙げたいんだよ!」
亮平が大きい声を上げた時。
「あ……」
驚いた顔をした彼が亮平が注文したバスケットに入ったフライドポテトを持って立っていた。今の話を耳にしたのだろうか? 驚いた顔で亮平を見ている。
「あ、ありがとうございます」
亮平は彼が持ってきた料理を見て頭を下げた。
「い、いえ。フライドポテトでございます」
テーブルの上にフライドポテトが入ったバスケットを置く彼の手が何故か震えている。そして一瞬私の方をチラリと見た。
「!」
私は彼のその表情に驚いてしまった。何故なら彼は真っ青な顔で、何か物言いたげに私を見ていたから。
え……? ど、どうしてそんな目で私を見るの?
それは本当に一瞬の事だった。
「ごゆっくりどうぞ」
彼は頭だけ下げるとすぐにその場を去って行った。
「「……」」
私も亮平も黙っていたけれども、唯一何も気づいてないお姉ちゃんが嬉しそうにしている。
「揚げたてで美味しそうね。皆で食べましょう?」
「そ、そうですね。食べましょう」
「う、うん。食べよう」
私たちはバスケットに手を伸ばした――
亮平が先にお金を支払う為にレジへ向かい、お姉ちゃんのあとに続いて私も席を立って出口へ向かって歩き始めた時、不意に背後から声を掛けられた。
「お待ち下さい、お客様。お忘れ物です」
「え?」
振り向くと彼が立っていた。
「忘れ物……?」
おかしいな? 得に何も忘れ物していないけど……? すると小さくたたんだメモ紙を彼が見せてきた。
「メモ紙をお忘れです」
「え? そんな物知らな……」
だけど、そこで私は言葉を切った。彼が切羽詰まったような目で私を見ていたからだ。メモを差し出している手は微かに震えていた。
受け取って欲しいって……事だよね……?
「……ありがとうございます……」
メモ紙を受け取ると、彼は素早く頭を下げてキッチンの奥へと消えて行った。今のは一体何だろう……?
その時――
「どうしたの? 鈴音ちゃん」
お姉ちゃんが背後から声をかけてきた。
「う、ううん。何でもない。行こうか?」
そして先に店の外へ出た亮平を追うように私とお姉ちゃんは店を出た。
帰り道――
お姉ちゃんと亮平は楽し気に会話をしながら前を歩いている。私はそっとポケットに手を入れ、先程受け取ったメモ紙を手に取り、広げてみた
そこには恐らく彼の物と思われる電話番号とメールアドレスが記されていた――
恥ずかしい! 絶対亮平にからかわれるに決まってる。きっと、亮平の事だ。
<結婚する相手もいないのに、何でウェディングドレスなんか着てるんだよ?>
そんな風に言われるに決まってるんだから。
「あ、あ、あのね? こ、これは……!」
真赤になって慌てて言い訳しようとしているのに、何だか亮平の様子がおかしい。顔を赤らめてじっと私を見つめている。
「亮平……?」
「鈴音……」
すると何を思ったのか、亮平の手が伸びて来て私の頬に右手でそっと触れてきた。熱を持った亮平の手に、思わず羞恥で顔が真っ赤になってしまった。
「ちょ! ちょっとぉっ! な、な、何するのよっ!!」
慌てて亮平の身体をグイッと押しやると、そこでようやく我に返ったかのように亮平はハッとした表情に変わった。そしてますます顔を真っ赤にさせて、口元を抑えた。
「あ……お、俺は今一体何を……?」
「な、何をじゃないでしょっ! そ、それはこっちの台詞よ! い、いきなり試着室のカーテン開ければそこに立ってるし、おまけに人の顔に勝手に触るし……!」
さっきの亮平の私を見つめる目が忘れらず、照れくささを隠すために私はわざと強気な態度をとった。
「な、何だよっ! そ、そういう鈴音こそいきなりウェディングドレス姿で現れるなよ! 心臓麻痺起こすところだったぞ!? 全く心臓に悪いったら……」
「な、何よ。心臓麻痺って……」
酷い、あんまりな言い方だ。
「まぁまぁ、鈴音ちゃん。亮平君、落ち着いて」
するとお姉ちゃんが止めに入ってきた。
「な、何ですか……忍さん。鈴音のセレモニードレスを見て欲しいって言うから俺はてっきり……なのに、ウェディングドレスを着ているから驚きましたよ」
「あら? いいじゃない……すっごく素敵。良く似合ってるわ。そう思わない、亮平君?」
「……」
亮平はチラリと顔を赤くしながら私を見る。
「ま、まぁ……馬子にも衣装ってところかな?」
な、何よその言い方。お世辞でもいいから『似合ってる』位言えないの? こっちだって恥ずかしくて堪らないのに……そしたら笑ってごまかせるのに!
「わ、私着替える!」
試着室の中に再び入るとカーテンを閉めて再び自分の姿を鏡で見て……思わず口から言葉が飛び出てしまった。
「亮平の馬鹿……」
ますます惨めな気持ちになってしまった――
****
その後、今日は下見だけと言う事でお店で住所と名前、連絡先だけ伝えると私達はレンタル衣装店を出た。
「何だか喉が渇いたわね。ちょっとファミレスに寄って行かない?」
お姉ちゃんは彼がバイトしているファミレスを指さす。
「いいですね。それじゃ行きましょう」
亮平が素早く返事をした。
「え? ちょ、ちょっと待って。あのファミレスは……」
あのファミレスはまずい。だって直人さんの弟さんがバイトしているかもしれないから。正直に言えば、もう会いたくは無かった。だって彼を見ると直人さんを思い出してしまうから。
「何だよ? 入りたくない理由あるなら言えよ」
「べ、別に特に理由は……」
私は咄嗟にごまかすのが苦手だ。変に言い訳しても勘が鋭い亮平に見抜かれてしまうから。
「いいじゃない、鈴音ちゃん。あのファミレスならフリードリンクがあるから好きな物飲めるわよ?」
「う、うん……分った……」
よくよく考えてみれば、あれから3カ月近く時が経っている。彼はもうバイトしていないかもしれないし、シフトがたまたま合う……何て事も無いだろう。
そして結局私は2人に挟まれるようにファミレスへ連れて行かれてしまった。
店内はお昼前だったけれども土曜日だったと言う事もあって、賑わっていた。
「いらっしゃいませ」
店内へ入るとすぐにお店の人が現れた。
「「あ……」」
ああ、なんて事だろう……。
現れた彼は直人さんの弟だった――
「こちらのお席へどうぞ」
彼は私達を真ん中の列のボックス席に案内してくれた。
「何かお決まりになりましたらお呼び下さい」
すると亮平が言った。
「全員、フリードリンクで……え?」
その時、亮平が彼の着けている名札に目をやっていることに気付いた。ま、まさか……亮平に彼が直人さんの身内だと言う事がばれた?
「お客様?」
彼が首を傾げる。
「いえ、何でもありません。ではお願いします」
「ではごゆっくりどうぞ」
彼が頭を下げて去って行くと早速亮平が声をかけてきた。
「それじゃ、皆で飲み物を取に行こう」
「それで、鈴音はどんな結婚式プランがいいんだっけ?」
亮平がニコニコしながら尋ねる。
「だからどうして私が考えなくちゃいけないのよ。お姉ちゃんの好みの結婚式にすればいいじゃない」
チラリとお姉ちゃんを見ると、まるで他人事の様にスムージーを飲んでいる。
「いいじゃないか。忍さんはお前の思い描く結婚式を挙げるのが夢なんだから」
「だったら亮平が決めればいいでしょう?」
「あのなぁ……俺はお前の希望通りの結婚式を挙げたいんだよ!」
亮平が大きい声を上げた時。
「あ……」
驚いた顔をした彼が亮平が注文したバスケットに入ったフライドポテトを持って立っていた。今の話を耳にしたのだろうか? 驚いた顔で亮平を見ている。
「あ、ありがとうございます」
亮平は彼が持ってきた料理を見て頭を下げた。
「い、いえ。フライドポテトでございます」
テーブルの上にフライドポテトが入ったバスケットを置く彼の手が何故か震えている。そして一瞬私の方をチラリと見た。
「!」
私は彼のその表情に驚いてしまった。何故なら彼は真っ青な顔で、何か物言いたげに私を見ていたから。
え……? ど、どうしてそんな目で私を見るの?
それは本当に一瞬の事だった。
「ごゆっくりどうぞ」
彼は頭だけ下げるとすぐにその場を去って行った。
「「……」」
私も亮平も黙っていたけれども、唯一何も気づいてないお姉ちゃんが嬉しそうにしている。
「揚げたてで美味しそうね。皆で食べましょう?」
「そ、そうですね。食べましょう」
「う、うん。食べよう」
私たちはバスケットに手を伸ばした――
亮平が先にお金を支払う為にレジへ向かい、お姉ちゃんのあとに続いて私も席を立って出口へ向かって歩き始めた時、不意に背後から声を掛けられた。
「お待ち下さい、お客様。お忘れ物です」
「え?」
振り向くと彼が立っていた。
「忘れ物……?」
おかしいな? 得に何も忘れ物していないけど……? すると小さくたたんだメモ紙を彼が見せてきた。
「メモ紙をお忘れです」
「え? そんな物知らな……」
だけど、そこで私は言葉を切った。彼が切羽詰まったような目で私を見ていたからだ。メモを差し出している手は微かに震えていた。
受け取って欲しいって……事だよね……?
「……ありがとうございます……」
メモ紙を受け取ると、彼は素早く頭を下げてキッチンの奥へと消えて行った。今のは一体何だろう……?
その時――
「どうしたの? 鈴音ちゃん」
お姉ちゃんが背後から声をかけてきた。
「う、ううん。何でもない。行こうか?」
そして先に店の外へ出た亮平を追うように私とお姉ちゃんは店を出た。
帰り道――
お姉ちゃんと亮平は楽し気に会話をしながら前を歩いている。私はそっとポケットに手を入れ、先程受け取ったメモ紙を手に取り、広げてみた
そこには恐らく彼の物と思われる電話番号とメールアドレスが記されていた――



