「もしもし?」

スマホをタップすると私はすぐに応答した。

『鈴音、新年あけましておめでとう。今年もよろしくな』

受話器越しから亮平の声が聞こえてくる。

「うん、明けましておめでとう。こちらこそ今年もよろしくね」

『ところで鈴音、お前…今どこにいるんだ?』

「え?」

『いや、実はさ…今お前のマンションに来てるんだ。インターホン押したんだけど、出てこなかったから。ひょっとするとお前、今何処かに出掛けてるのか?』

嘘っ!亮平…私の部屋へ来てたの?新年早々会いに来てくれたなんて…。嬉しくて胸をドキドキさせながら私は答えた。

「あの、実は今初詣に行った帰りなの。多分…後10分位で戻れると思うんだけど…」

『そうか…10分か…』

電話越しから亮平のため息混じりの声が聞こえてくる。やっぱり誰だって寒空の下で10分も待っていられないよね?

「亮平。ごめんね。折角来てもらったのに留守にしていて。あのね、待っていてもらうのも悪いから帰ってもいいよ?」

『馬鹿言え。電車に乗ってわざわざ鈴音の処に来たって言うのに帰れるはずないだろう?それに何の連絡も無しに突然訪ねてしまったこっちも悪いんだし。謝るなよ。でもせいぜい…後10分位なら…そうだな、駅前に戻ってどこかカフェを探してみるわ。場所が決まったらメールするから、そしたら鈴音も来いよ。一緒にコーヒーでも飲もうぜ』

「うん!ありがとう!なるべく急いで行くね」

亮平に会える嬉しさで思わず声が弾んでしまう。

『いいよ、別に急がなくても。こっちは今から駅に戻ってカフェを探さなくちゃならないから、普通に歩いて来いよ』

「うん、分かった」

『それじゃ、また後でな』

それだけ言うと亮平からの電話は切れた。

「…」

亮平に会うのは約1週間ぶりだ。この間、熱で弱っていた時に思わず普段なら絶対に言わないようなセリフを言ってしまって会うのに多少の気恥ずかしさはあるけれど、やっぱり会えるのは嬉しい。歩きながらつい口角が上がるのを止められない。

「…誰にも会わないと思っていたから適当な服着てきちゃったけど…亮平に会えるならもっとオシャレしてくればよかったかな…」

今更ながら後悔した。

「化粧もほとんどしていないし…でもいっか。所詮会うのは亮平だし、今更だよね…」

こうして私は半ば割り切って新小岩駅を目指して歩いた。



 駅前のロータリーが見えたところで、再びスマホに着信が入ってきた。

「きっと亮平からだね」

独り言を言うと、スマホをバックから取り出してタップするとやはり相手は亮平からだった。


『駅前のビルの1Fのカフェで待ってる』

メールにはそれだけが記されていた。

「よし、急ごう」

メールを確認すると私は急ぎ足で亮平の待つカフェへと向かった。


****

 ドアの開閉音の音楽を鳴らしながらカフェへと入ると、店内は大勢のお客さんで込み合っていた。亮平はどこにいるんだろう?キョロキョロ入り口付近で立ち止まって亮平の姿を探していると、窓際のテーブル席から声が掛けられた。

「鈴音っ!こっちだ!」

見ると亮平が手を振っている。私も手を振り、席へと近づいていき…足を止めた。亮平は1人じゃなかった。私の方に背を向けているのは女性の後ろ姿。

ま、まさか…。

「亮平…?あ、あの…」

一瞬、私は冷や水を浴びせられたかのように全身がぞっと冷えるのを感じた。
その女性は私の方をゆっくりと振り向いた。

「ま、まさか…」

その人物はお姉ちゃんだった――