図書室ピエロの噂

 顔の半分側が、まちがいなく人潟くんだ。

 ……人潟くんが人体模型だったのか。
 考えてみると、いつも正面を向いているか、ちょっとしかぼくの方を向かなくて、それはいつも左側だった。それに、夏休みも学校にいるだろうから、荷物を持って帰らないのもわかる。トンカラトンのときだって、学校には出ないから安全だと話していた。そんなことを考えていると、人潟くんの顔が、泣きそうにも怒っているようにも見えた。もう半分は、顔の筋肉の模型だから、表情はわからない。

「見ーたーなー!!」

 人潟くんがそう言って手を伸ばしてきた。
 哀名がぼくの手を握り返し、引っ張って走り始めた。あわててぼくも走り出す。
 ぼくと哀名は階段を駆け下りる。
 だがどんどん人潟くんが迫ってくる。足が速い。二階の廊下で曲がったぼく達は、突き当たりを目指してとにかく走る。しかしどんどん距離をつめられる。このままでは、捕まってしまう。そう思った時だった。

 突き当たりの階段から、誰かがのぼってきて姿を現した。

「泰我先生!」

 ぼくは先生を見て、思わず声を上げた。するとニコリと笑った先生が、それからすぐに真剣な表情に戻り、ぼく達の横をすり抜けて、走ってくる人潟くんの前に立った。片手を突き出す。

()!!」

 先生がそう言うと、ぶわりと風が吹き、先生の手の辺りがあわく光った。
 まるで空気の壁にぶつかったみたいに、人潟くんの動きが止まる。

「こら、人潟。生徒を襲わないって約束しただろう? 約束を破るなら、もう教室に入れないぞ」
「せ、先生……でも……みんなにバラされたら……」

 人潟くんが泣きそうな声を出した。

「泰我先生は、人潟くんが人体模型だって知ってたの?」
「――まぁな。これでも寺生まれだからな」

 振り返って笑った先生は、それからぼく達を軽くにらんだ。

「お前達、もうとっくに下校時刻は過ぎてるぞ? どうしてここにいるんだ?」

 そうだ、ぼく達は、先生にここにいるとバレてしまったんだった。
 ぼくが項垂れると、哀名が言った。

「『図書室ピエロ』の居場所を知らないか、人潟くんに聞きに来たんです」
「図書室ピエロ……? それはまた懐かしいようで忘れられない名前だな……」

 泰我先生はそう言って腕を組むと、チラリと人潟くんを見た。

「俺も興味がある。人潟、何か知っているか?」

 すると人潟くんが、顔を上げた。