女の子が友達の問いにそう返す。この学校はチア部が女子生徒の間で人気だ。チア部に入るためにわざわざ県外から受験する人もいるほどである。

「あんたがチア部に入りたい理由、わかってるよ〜?阿部(あべ)がサッカー部入るって言ってるからでしょ」

「チア部に入ったらサッカーの大会で応援できるもんね」

友達二人がニヤニヤしながら言い、女の子は顔を真っ赤にしながら「違うから!阿部くんは関係ないよ!」と否定する。しかし顔が赤い時点で彼女が抱いている気持ちを察してしまう。

小町の胸が抉られるような痛みを覚える。目の前で話す女の子の名前すら小町は知らない。しかし、女の子が異性のことを考えていることに傷付いている自分がいる。

(ああ、嫌だな……。こんな気持ち抱きたくなかった)

小町は隣のクラスの伊勢紫(いせゆかり)に恋をした。叶うことのない想いだというのに、恋は自覚した途端に甘く音を立てていく。

紫が小町の隣を通る際、髪から花のような甘い香りがした。その香りにさえ心が動かされていく。