「へぇー、そんなことがあるんだね」
 ハリー君が感慨深げにそういった。

 学校の帰りに、柚葉とハリー君と一緒にファミレスに寄った。
 今日のドリンバーは、私の奢りだ。
 話を聞いてもらうんだから、これは必要経費だろう。

「それでねハリー君。お父さんに、こんなことって実際に起こり得ることなのか、聞いてみてもらえないかな。お父さん銀行にお勤めだったら、実務的な事もご存知だと思うんだ。私もいろいろ考えたんだけど、なんだか腑に落ちないことが多すぎて……」 

 私はお父さんの借入れについて起こったことを2人に話した。
 2人とも、そんな天の助けのようなことが起こるのかとびっくりしていた。

「本当に不思議だよね。ちょっと普通では考えられないような気がするけど……早速今日の夜にでも僕の父親に聞いてみるよ。ちょっと遅い時間になると思うけど、何かわかったら連絡するね」

「うん、ありがとう。やっぱり専門家の意見を聞いてもらえると助かるよ。私は遅くても大丈夫だよ。それに明日以降でもいいし。柚葉? どうしたの? 大丈夫?」

 さっきから柚葉の様子が少しおかしい。
 何か他のことを考えているのだろうか。
 気もそぞろといった感じなのだ。

「え? う、うん。大丈夫だよ。何の話だっけ?」

「もう……月島さんのお父さんの借入れの話でしょ」
 ハリー君が突っ込む。

「でも本当によかったよ。月島さんが学校をやめることにならなくて」

「ありがとう。私もちょっと覚悟したよ。受験もあるしさ、本当にそんなことになったら、どうしようかと思った」

「まあ神様は見ていた、っていうことなんじゃないかな。月島さんの日頃の行いがよかったんだよ」

「そんなに褒められたこと、した覚えはないよ」

 私はハリー君に、笑いながらそう答えた。
 ドリンクバーを堪能して、私たちは解散した。
 柚葉の様子が、最後までおかしかったけど……。

        ◆◆◆

「やっぱり普通じゃなかったんだね……」

 夕食後の遅い時間にハリー君からかかってきた音声通話を終えた私は、そう呟いてお茶を一口飲んだ。

 ハリー君との会話を、もう一度頭の中で反芻する。

「さっき父親に聞いたんだけどね、通常金融機関から債権譲渡通知書が届くケースというのは、よくないケースが大半なんだって。一番多いのは、延滞していたローンを回収専門の別会社に移して管理させるケースで、この場合だとローン回収のために法的な手続きに入る場合も多いらしいんだ」

 なるほど、それなら理解できる。
 そういうローンをまとめて管理した方が、企業としても効率的だと思う。

「でも月島さんのところの場合は通常のローンとして、しかも更に条件が良くなって別の会社に引き取られたってことだよね。そんなことはあり得ないって、父親は言ってたよ。だってそもそも、そんなことをするメリットなんて何もないじゃない? 何か恣意的(しいてき)な理由があって、特別に移されたんじゃないかって」

 そうだよね……でも恣意的(しいてき)って、誰が何のために?
 本当に神様が助けてくれたとしか思えないんだけど。

「不思議なことが、あるもんだなぁ……」

 やっぱり日頃の行いがよかったのかな……私はそんな非科学的なことを思っていた。
 これでもう全部問題は解決したんだろうか。
 本当にもう、なにも起こらないのか。
 臆病な私は、それでも心配だった。