「す、すいません……それはどういう……」 

「ははは、驚くのは無理もないだろうね。いや、我々も非常にびっくりしているよ」

 翌日私はまた北条先生から呼び出しを受けた。
 短時間で終わるので、お昼休みに来てほしいと言われた。

 ひょっとしたら、特待から外れることを通告されるのかもしれない。
 そんなことを考えながら、昼食なんて喉を通るはずがない。
 私は昼休みが始まると同時に、職員室へ向かった。

 北条先生と一緒に、小会議室へ入る。
 しかし後から入ってきた教頭先生から告げられたのは、私への特待はそのまま継続されるから、もう心配しなくていいという通告だった。

「詳しくは言えないんだけど……PTA会長を説得してくれた人がいてね。それに月島さんのお父さん、返済が滞っていた借入れは解消されたそうじゃないか。それであれば、そもそもなんの問題もないわけだしね」

「ど、どうしてそれを……」

 ちょっと待って。
 個人情報保護って、いったいどうなってるの?
 なんでそんなこと、学校が知ってるの? 
 私たちだって、昨夜知ったばかりなのに。

「うん、まあ詳しくは言えないんだよ。とにかく特待に関しては心配ないからね。ああ、もちろん成績が下がった場合には、遠慮なく取り消しさせてもらうよ。だから引き続き頑張ってね」

「え? は、はい、それはもちろん。頑張ります」

「昼休みに呼び出して悪かったね。ただできるだけ早めに知らせてあげたほうがいいと思って。それじゃあ、これからも頑張って下さい」

「はい! ありがとうございました!」

 私は立ち上がり深くお辞儀をして、小会議室を出た。
 職員室から戻る途中、私の頭の中は混乱を極めていた。

「いったい何が起こってるの? 昨日といい今日といい……タイミングが良すぎるわ」

 特待が継続になったことは、素直に嬉しい。
 でもこんな不思議なことが続くなんて、ありえるの?
 
 私は頭の中にクエスチョンマークをたくさん抱えながら、教室に戻った。
 教室では柚葉が心配そうに待ってくれていた。

「華恋、大丈夫だった?」

「うん、大丈夫は大丈夫なんだけど……」

「悪い知らせじゃなかった?」

「違う違う。むしろ良い知らせなんだけど……なんだか腑に落ちなくて」

「月島さん、呼び出しされてたみたいだったけど、大丈夫だった?」

 ハリー君まで心配そうに来てくれた。
 ハリー君とはあれから普通に接している。
 私も彼も、気まずい雰囲気になることはなかった。

「うん、大丈夫。そういえば……ハリー君のお父さんて、銀行にお勤めじゃなかったっけ?」

「うん、そうだよ」

「……ねえ、ちょっと今日の帰り3人でファミレスにでも行かない? 聞いてほしいことがあるんだ」

 私は2人に提案する。
 謎が多すぎて、私一人では手に余る。
 ちょうど今日は金曜日だし、ちょっと2人の知恵を借りてみようと思う。
 2人とも、快く応じてくれた。

 昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。
 柚葉もハリー君も、自分の席に戻る。
 そして宝生君も、戻ってきた。

「何かいいことでもあったのか?」        

 隣の席から、低く優しい声が聞こえた。

「う、うん。わかる?」

「ああ。なんだか嬉しそうだぞ」

「そう。とってもいい事があったんだ」

「そうか」

「ねえ……」

 私は言おうかどうしようか、迷ったが……

「あのね、もうちょっとしたら……いろいろと宝生君に話せるようになるかもしれないの」

「そうか」

「もう少し、待っててくれる」

「ああ。わかった」

「ありがと」

 ちょうどその時、本鈴が鳴って先生が入ってきた。
 彼はいつも通り言葉少なだった。
 そしてその眼差しも、いつも通り優しかった。