チャイム音とともに、エレベーターの扉が屋上で開いた。
 そのままドアを抜けて外にでると、そこには広い屋上空間があった。
 手すりの近くまで寄ってみると……

「うわぁ……」

 まわりのビルの明かりが綺麗だ。
 その向こう側に、夜の海が見える。

「すごくいい眺めじゃない」

「ああ。もう暗くなってしまったけど、夕暮れ時も綺麗だぞ」

「もう……そうやって女の子を連れてきて、酔わせて落としてたわけだね?」

「なっ……違うわ! ここに女性を連れてきたことはないぞ」

「えっ? そ、そうなの?」

「ああ」

 彼は少しバツが悪そうに、下を向いた。
 ちょっと失言だったかな……。

「それに落とした覚えないぞ。勝手に落ちくるだけだ」

「うわぁ、感じワルっ!」

 やっぱり失言じゃなかった。

「ところで、なんだかすごく豪華なんだけど」

 ビルの屋上には似つかわしくない用意がされていた。
 横長のソファーが一つ。
 多分3人だと狭くて2人だと広い、ぐらいのサイズ感。
 それとテーブルが用意されていて、白いテーブルクロスが張られた上に軽食の用意がされていた。
 ピザにフライドチキン、サンドイッチやフライドポテト、カナッペみたいなものもある。
 その横にはアイスボックスが置いてある。
 多分飲み物が入っているんだろう。

「なんでソファーなの?」

「いや、俺も一人がけの椅子を持ってきてくれると思ってたんだけどな。毎年そうだから」

「そう。でも座り心地よさそうだからいいけど」

「アイスティーでも、飲むか?」

「うん、頂きたい」

 彼はアイスボックスから、ボトルのアイスティーと缶コーヒーを取り出した。
 ボトルのキャップを開けて、私に渡してくれる。

「ありがと」

「腹へってるか?」

「なんだか見てたら、お腹空いてきちゃった」

「じゃあ自分で好きなものを取ってくれ」

 そういってプレート一枚、渡してくれた。
 私はピザとフライドチキンとカナッペを取った。

 ソファーの前のローテーブルに、お皿と紅茶のボトルを置いて座る。
 体が心地よく沈み込んだ。
 多分高級なソファーなんだろうな……。

「ところで……他の人たちは? その、教育係の人とか?」

「ああ、なぜか今日は2人だけになってしまった。なんだか変な気を使われてな」

「えっ? そ、そうなんだ」

 ということは、何?
 こんな豪勢なソファーに座って、宝生君と2人で花火を見るってこと?
 
「まあ大人数だろうが、一人だろうが、花火を見ることには変わりないからな」

「う、うん。そうだね……」

 変わりないことはないと思うけど……。

「この間中間テストだったと思ったら、もうすぐ期末テストだな」

「あーそうだね。また勉強会、やる?」

「ああ、頼めるか?」

「前にも言ったけど、今度は数学教えてね。あと英語も」

「まあ必要なら。多分教えることもないと思うが」

「そんなことないよ。最近応用問題でかなり難しいの出てくるじゃん。ああいうのって、解くのに時間かかるからさぁ」

「まあそうだな」

 また市立図書館で、勉強会だ。
 予約を入れておかないと。

「そういえばさ、会場周辺ってお店がたくさん出るじゃない」

「ああ、そうだな」

「そういう所って、行ったことある?」

「小学校低学年の頃とかは、行ったな。吉岡とか西山に連れてってもらったよ。父親には連れてってもらった記憶がないな。やっぱりセキュリティーが大変だからな」

「そうなんだね。私も小さい頃、お父さんに連れてってもらった覚えがあるなぁ」

「浴衣着てか?」

「うん、そうだね……ねえ、やっぱり浴衣着てきた方がよかった?」

「は? いやいや、だからそれだと苦しいだろ? いろいろ食べられないし」

「そうだね。ソファーだと帯が背中に当たって座りにくかったかも」

「たしかにな。それに花火見ている間に寝ちまったら、いろいろはだけたりして大変だぞ」

「べ、別に寝ないし」

「映画館で熟睡してたヤツが何言ってんだ」

「あ、あれは仕方ないでしょ? 前の日あんまり寝れなかったんだから……」

「そうだったのか?」

「えっ? あーもーいいでしょ! 何時から始まるんだっけ?」

 私は墓穴を掘る前に、話を変える。
 すると目の前にヒューっと音がして、オレンジ色の光が登ったかと思うと、パァーンと大きく弾けて花を咲かせた。